第41話わたし、魔法少女のパートナーができちゃったみたいです(もうこんなのでもいいですよ)

「それじゃあキミは、魔法少女を続けるのかい?」

 そう緑の目は訊いてくる。

 いまさらそれを訊いてくる。

 それは質問じゃなくて確認の問いだった。

 いまの話しを聞いたら、いいも悪いも何もないと思うけど。

 そうじゃなくてもこの緑の目には、わたしが何て答えるかわかってたんだろう。

 あんな話しを聞いたあとでも。

 わたしがどう答えるか、ホントは訊くまでもなかったんだろう。

 それでも言葉にして訊いてきたのは、この緑の目の言うところのってやつなんだろうか。

 それとも本人の口から、言わせたいだけなのかもしれないけど。

 そういうの、何て言うんだっけ?

 たしか、なんとかをとるとかとらないとか言ってた気がする。

 まあいいや、何でも。

 どうせ何でも、同じなんだから。

 だって。

 、わたしの答えは最初から決まってた。

 、初めから、どう答えるか決めていた。

「もちろん当然当たり前だよ。こんな嬉しくて愉しくて気持ちいいこと、

 やめられるわけ、ないじゃない。

 だってわたしにとって魔法少女は。

 わたしの願いの叶った姿で。

 わたしの望みを果たせる仕事で。

 わたしの憧れに続く道で、星を掴む階段なんだから。

 だから、途中で立ち止まったり降りたりなんて絶対しない。

 そのお母さんの願いまで叶えたみたいだし。

 だったらなおさらだった。

 やめる必要なんてどこにもない。

 やらない理由が見当たらない。

 ただ何があってもやってやる、どんなことがあっても続けてやるって。

 その想いしか、いまのわたしにはなかった。

「わかったよ。キミの選択と決意、覚悟と確信、確かに受け取ったよ。ザント・ツッカーヴァッテ砂の綿菓子

「なんでいまその名前で呼ぶの!」

「なんでって、これからも魔法少女を続けていくんでしょ?」

「そうだけど、そう言ったけど、

。そんなに嫌なの?」

「嫌なんじゃなくて恥ずかしいの!」

 魔法少女になってたときはなんとも思わなかったのに、いまはものすごく恥ずかしい。

 むしろ、

 これしかないって思うくらい、ピタリとはまった感じがしたのに。

「それでこの魔法少女についてのなんやかんやが、最初にあんたがわたしに言いたかったってことなの?」

「これだけじゃないけど、このことは何よりもまずキミに伝えたくて、そして知っておいて欲しかったことなのは確かだよ。キミたち魔法少女にとって一番根幹的な問題であり、根源的な始点。そして根本的な在り方であり根底的な継続形態だからね。しかしなんやかんやとは随分と雑な認識だね。ボクが言うのも何だけど、結構深刻な話しだったと思うけど。いや、キミなら正しく認識しているか。

「それは嫌味なんですか皮肉なんですかどっちなんですかそうですか両方ですか」

真逆まさか。キミは聡い子だなって、ただそう思っただけだよ」

「そうですか。それじゃあ後悔して泣きわめいたりしたほうがよかったの?」

 そうやって、あんたを責めたほうがよかったの?

「それが普通の、この話しを聞いた子たちの示すごく一般的な反応だね。ひとに裏切れた怒り、差し出された嘆き、切り捨てられた痛み。失意。そしてこれから続く、終わるまで続き続ける魔法少女への絶望。そうした負の感情を受け止めるのもボクの仕事のひとつだかね」

 そうやって、またあんたは。

「どうしてなの?」

「なにがだい?」

「どうしてあんたがそんなに苦しそうなの? 別にあんたが悪いわけじゃないじゃない。あんたがわたしたちに何かしたわけじゃないじゃない。なのに何勝手に罪悪感感じてるの。。あんたがどう思って何を感じようと好きにすればいいけど、その後始末を。自分の罪悪感を減らすのに使。大体、何であんたがそんなに辛そうなの? それはわたしたちのでしょ。あんたがそんなしなきゃいけない理由なんてないじゃない。まあ、わたしには全部全然何にも関係ないけどさ!」

「……キミは本当に、敏い子だね」

「普通の子じゃなくて悪かったね。でもこれがあんたがパートナー相棒に選んじゃった子だから、諦めてよね」

 わたしはとっくに諦めた。

 諦めて、そして認めて受け入れた。

 それはあんたの趣味の悪い告白を聞いたからなんかじゃなくて。 

 あんたが、それを言えるやつだってわかったから。

 あんたがどうやつなのか、少しだけでも知れたから。

 それが勘違いでも思い込みでも構わない。

 そう感じた責任は、わたしがとればいいだけだ。

 だからわたしは決めたんだ。

 あんたとこれから、魔法少女をやっていくって。

「諦める? 真逆まさか。もう言葉にして伝えていると思うけど、ボクはキミがパートナー相棒で本当に嬉しいんだ。キミとならきっと最高のパートナーになれる、これからもキミのことを助けることができる。それはボクにとって本当に

「そう、それはホントによかったね」

 それがわたしにとって、しあわせなのかどうかはわからないけど。

「ただ、ね」

「ただ、なに?」

「たださっきから気になってることがひとつあるんだ」

「だから、なに?」

 もうひとつでもふたつでもいいから言っちゃってよ。

「どうしてキミがそんなに怒ってるの?」

「怒ってないよ! ちょっとイライラしてるだけだよ!」

 何でかはよくわかんないけど。

「それは大して変わらないと思うよ」

「それじゃ違うってことでしょ」

 同じじゃないなら違うものでしょ。

「そうだね、違うね。キミは確かに。キミは強くて危うい、いや、。とても強かで、とてっも危ない子だ」

 いまなんで言い直した。

「で、何でまたそんな子を魔法少女に、あいつらと戦わせるの?」

「それはこの世界を守るためだよ」

「ひとに生命をかけさせて?」

「そうだよ。ひとの生命と世界の安定、秤にかけるまでもないからね。キミだってよく解ってるはずだよ、生命の価値が平等じゃないってことくらい。それで世界を救えるなら

 ええ、ええ、そうでしょうとも。

 やっとこの緑の目が戻ってきた。

「生命をかける本人に、どれだけ低く頭を下げてお願いしても承諾してはくれないからね。それが世界のためでもであったとしても。皆身銭は切りたくないし、。だけどこれを他人にやらせると、驚くほど簡単に。何の躊躇いもなく。偶に良心とか倫理とか道徳なんかを持ったひとがいるけど、、キミが言うように皆同じさ。これ幸いと喜び勇んで勢い良く札を切るか、悩んで葛藤して折り合いをつけた挙げ句にそっと札を置くか。どっちもやったことは変わらない。だから結果はみんな同じさ」

「だからなの?」

「だからって? 最近気づいたけど、キミは結構話しの振り方が唐突だね」

「それはどうでもいいでしょ。わたしが訊きたいのは、あんたが魔法少女のことを説明するのに?」

「誠意か……。自分で口にした言葉だけど、を誠意と呼んだら舌を火傷するくらいじゃ済まないだろうね」

「それならあんたの舌はいつでも大炎上だね。それで、?」

「誰って?」

 ああ、これはわかってて訊いてるな。

 だって否定しないもんね。

「そんな回りくどい、ひとの心の隙間を無理矢理こじ開けるような仕組みをつくったのは誰かってことだよ」

「ああ、それならいるよ。このシステムを設計して構築して実行した存在は」

「だからそれは誰なの?」

 一番面倒で回りくどいのはやっぱりあんただ。

「キミは勘もいいけど、その分妙にこだわるね」

「わたしは自分の気になったことをスッキリさせたいだけだよ」

 いつでも晴れ晴れとしたこころでいたいだけだよ。

「別に意地悪しているわけじゃないよ。ただのことを何て言っていいのか、として扱っていいものかどうか、考えていただけだよ。彼女自体がこの世界の構成部品のひとつみたいなものだしね。それでも枝葉末節を取り払って簡潔に解りやすくキミにも馴染み深い単語であえて表現するとしたら、それは」

「それは?」

 大丈夫、わたしはまだ待てる。

 もう拳は握ってるけど。

「神って言ってもいいかもね」

 ホントにいたのか、神様。

 それもかなり適当に軽く言われる程度のものが。

、わたしずっと言いたいことがあったんだよね」

「何を?」

「もう少し、ってさ」

「それは彼女に言ったほうがいいだろうね」

「うん、そうする」

 必ずそうする。

 そんなのがいるとわかった以上、絶対にそうしてやる。

 わたしの言葉を、その神様とやらにぶつけてやる。

 わたしの拳とセットで、その顔面に思いっきり叩きこんでやる。

だから思いっきり知るといい。

そんなことをするなんて、夢にも思っていなかった相手から殴られたときの気持ちを。

それがどれだけ痛いのか。

そしてどれだけ怖いのか。

こころの底から、知るといい。

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