第23話わたし、魔法少女になったら仕事がまた増えました(やってもいいことが、増えました)
ガッツン、ガッツン、ガッツン、ガッツン。
わたしは最後の仕上げに、全部の手足を踏みちぎる。
足もとのこいつには、もう大体のことはやり終えた。
やり終えたけど、でもまだホントに生きている。
これだけやってもまだ生きてる。
全然動かなくなったし、何の反応もしなくったけど。
何もなくなったから、終わりにしたんだけど。
こういうのを、虫の息っていうんだろうか。
虫の呼吸なんて、まだ聞いたことないけれど。
それでも、お腹のあたりを適当にゴツっと蹴れば、ヒュッと空気の抜ける音と、低く小さい声がする。
だからまだ、生きている。
わたしに体中べこべこにされて、体の中もグチャグチャにされたこいつも、似たようなことをして、あそこに積んでったあいつらも。
そういえば、むしったまんま右手に持ってたこの首もまだまだちゃんと生きている。
ずっと持ってたせいで、頭のところにわたしの手が食い込んだあとがしっかり残ってる。
このまま握りつぶしたら、さすがに死ぬんだろうけれど。
力自慢の人がよくやってる、りんごを握りつぶすみたいに。
いまのわたしなら、生卵を潰すより簡単にできると思う。
よくいままで、潰さないで持っていられたなあ。
えらいぞ、わたし。
それにしても、こいつらホントに頭さえ大丈夫なら生きてるんだ。
むしろ、頭がある限りこいつらは死なないんだ。
死ねないんだ。
こいつら自身は、もうとっくに、もしかしたら最初から、生きる気なんてなくしてたけど。
だったらそれって、なんだか呪いみたいだね。
ろくに生きる気もないくせに、死ぬのもままならないなんて。
でも頭さえ潰せばいいんだから、逆に言えばとっても簡単。
自分で自分を終わらせための、手順はとってもわかりやすい。
誰でもできる、簡単な作業。
こいつらは、そんなこと絶対にしないと思うけど。
思うけど。
「で、実際そこのところどうなの?」
わたしは右手に持った首に向かって、正面から目を見て訊いてみる。
気づけば首からの血は止まってた。
だけどそいつは、口から舌をだらしなくこぼすだけで、何も答えはしなかった。
なのに目だけは器用にそらしてみせた。
あ、そう。そういことするんだ。
そっちがその気なら、わたしにだって考えがあるよ。
わたしは左に持ってたエグイアスを、スコップみたに地面に刺して固定する。
ちょっとだけ、待っててね。
そうして空いた左手の、人差し指と中指をで、首の両目をピタリと指差す。
眼球の目の前で、二本の指を自然に曲げて構えてみせる。
そういえば、
じゃあこれが初めてだ。そんなことを思って、ブスリと両目に指を突っ込もうとした瞬間。
「それは止めた方がいいと思うよ」
と、相変わらず絶妙なタイミングで、緑の目が言ってきた。
わたしの肩越しから、覗き込むように口をだす。
それ、ホントに取り憑かれてるようで何か嫌。
「止めたほうがいいって、どういうこと?」
この緑の目の位置どりはひとまず置いといて、わたしはそのまま訊き返す。
「その目を潰すと死んじゃうってことだよ。それだといままでのキミの思惑と我慢が、全部無駄になると思ってね」
それはまた親切なことで。でも。
「でも目なの?頭じゃなくて?」
「確かに頭でもいいんだけどね。でも、もっと厳密かつ正確に言うとね、この〈
はー。うん。なるほど。つまり。
「よし、わかった。こいつらの一番の弱点は目なんだね」
「そう言ったつもりだったんだけど、ちょっと長かったかな?」
大分長かったよ。
あと、何かよくわかんなかったよ。
自分がわかってることを、相手もわかってると思って話すのはやめてほしい。
まあ、別にいいけど。
大事なことはわかったから、それさえわかればそれでいい。
でも。
「でもそれなら、最初からそう言ってくれればのに」
「キミの力なら、そこまでの情報は必要ないと判断した結果だよ。無駄に細部まで伝えてキミの行動を制限したくなかったし、実際あれだけの情報で十分だったでしょ」
それは、まあ、そうだけど。
「だけど最初から知ってたら、こんなことしなかったのに」
「そんなことないよ。他の魔法少女ならともかく、キミくらい出鱈目な攻撃力と破壊力、そして殺傷力を持ってる魔法少女はそうそういないからね。あのやり方、あの戦い方が最善で最適だよ。もうとっくに気づいてると思うけど魔法少女になった際、本人の魔力で身体能力は強化されるよ。キミの場合は純粋に力、いや、純粋な暴力に特化しているね。しかも
いや、そういうことじゃ、ないんだけど。
「そうじゃなくて、最初から知ってたら、危うく殺しそうになったりしなかったって話しだよ」
「ああ、そういうことなら大丈夫だよ。そうならないように、
同じ大丈夫って言葉でも、言うひとによってこんなにも違うのか。
それにそれだと、先回りなんだか後出しなんだかよくわからない。
でも、えーと、それって。
「それって、褒めてるの?」
「勿論だよ。手放しの賞賛、感嘆、大絶賛だよ。力にも権力や経済力とか色々あるけど、何より強いのは問答無用の暴力だよ。ちょっと触れただけで、有象無象の全てを薙ぎ払って崩してしまう。ちょっと押しただけで、常世の理も歪めてしまう。キミの力は
ああ、それはまた、なんて言うか。
「どうも、ありがとう?」
「いやいやお礼を言いたいのはこちらのほうだよ。キミならきっと
いやいや訊きたいことが増えたのはこっちだよ、だって。
「いまなんか、知らない名前がいっぱいでてきた気がするんだけど」
「それは全部、キミがこれから戦うものたちの名前だよ」
え、そんなにいるの?
それは、いやだなあ。
「つまり、全部、キミが殺してもいいものたちの名前だよ」
そっか、それだけいるんだ。
それなら、いいや。
「うん、なんかやる気でてきた」
「それはよかった。キミのモチベーションの維持と向上も、ボクの仕事のひとつだからね」
やる気はでてきたけど、気になることがひとつ。
それは。
「そいつらって、やっぱり強いの?」
「強いよ。個体差はあるけど、少なくとも、今キミが右手に持ってるものよりは遥かに。特に、魔女はね」
あー、そんなに強いのか。でもわたしは、戦うことが大好きな地球育ちの優しい宇宙人じゃないから、ワクワクなんてしたりしない。
むしろそれより。
「魔女って、具体的にどんなものなの?」
「そんなに
悪い魔法少女、ね。
「それってどういうものが、魔女っていう悪い魔法少女になるの?」
「魔女っていうのは、魔法少女であることを手放したもの。魔法少女のあり方を見失ったもの。魔に魅入られ、魔に取り憑かれ、魔を取り込んで、魔に堕ちたもの。そのために、少女でいることを病めたもの。魔法少女として
なんだ、そうなんだ。
それならわたしは、
「それで残りはあと一体だけど、あの個体はどうするの?」
「ああ、あれね。うん、どうるかは、
そう、ちゃんと考えてる。
さっきの話のことを考えてる。
わたしはものを考えるようにはできたないのに。
できないことをすればどうなるか、知っているはずなのに。
それでも、どうしても、考えてしまう。
考えずにはいられない。
だってそれって。
それって、わたしが死ななければの話しだよね。
わたしがこのさき、生き続けることができるならの話しだよね。
そうしないと、
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