第18話 告白してみた僕
僕の胸に飛び込んだルカテリーナ様を受け止めると腰に手を回して抱きしめた。
少し震えているようだ。顔も真っ赤だ。可愛らしい。
誰かに告白するときって凄く勇気がいるんだよなぁ。
ヘタレな僕に告白しろと言われても、多分、
心を開いて素直に告白する勇気が、羨ましいとさえ思えてしまう。
ルカテリーナ様のことを好きが嫌いかで聞かれると、苦手意識はあるけど嫌いではなく、どちらかというと容姿が凄い美人さんだから、きっと好きだと答えてしまうだろう。
そこへ、本心のルカテリーナ様の声が聞けたからなあ。
心の奥底にある好き好きバロメーターがグググッと急上昇していくのが解った。
僕のことを好きだと告白してくれたのは、素直に嬉しかったし、必要とされる人間だと認めて貰えただけで生きる勇気と希望が湧いてくる。
男尊女卑の考えが主流な貴族の世界は、男性のほうから告白するのが常識で、女性からの告白ははしたないという風潮が根付いている。
公爵令嬢ともなれば、男性を立てるように教育され、その風潮も色濃く刷込まれているはずで、その貴族の慣習を破ってまで告白するだなんて、その勇気と行動はきっと称賛に値することだと思う。
だからだろうか、よけいに尊敬のまなざしを向けてしまいたくなる。
素直な声が聞けただけで、今までの苦手意識が薄らいでいき、徐々に愛おしく思えてくるから感情って不思議だよなあ。
なんといってもギャップが半端ないし。
散々注意された後だからってものあるけれど、僕の胸の中に埋もれて震える姿を見てるとキュンキュンと胸が疼く。
ルカテリーナ様の告白を聞いたからには、僕もなんらかのアクションを起こさなければならないだろう。
言うことはもう決めてるんだけど、とっても恥ずかしいから正直ビビってる。
心臓の鼓動の音が大きく聞こえて、煩いったらありゃぁしない。
大事な時なのに気になって集中力が乱れそう。
しかも時間が経つにつれ、どんどん音量が大きくなって。
こんなバックサウンドは正直いらないんだけど。
ええい、ままよ!
しっかりしろ!!男だろ!!
僕は勇気を振り絞って言ってみた。
「ねぇ、ルーナ先生。僕も好きになってもいいかな」
吃らないで言えたから、内心ではホッとしている。
話してみるとやっぱり超恥ずかしい。
「本当……ですか?」
赤く顔を染めたルカテリーナ様がボソボソと小さな声で呟く。
「うん、両想いになりたい」
と僕はハッキリと自分の意思を宣言した。
僕って多分、人一倍愛情に飢えていて惚れやすい人間なのかもなぁ。
だって今は、ルカテリーナ様がひときわ輝いて見えてるから。
「ルーナ先生の思いを全部受け止めたいし、ルーナ先生に叱られるのも悪くはないかも」
今は大事な時。
ルカテリーナ様が勇気を振り絞って告白してくれたんだ。
「僕はルーナ先生をしっかり支えたいし、ルーナ先生にしっかり支えて貰いたいし、2人で一緒に支えあえる関係にもなりたい!」
僕も勇気を振り絞って、ちゃんと答えてあげなきゃ、男とはいえないよね。
「僕は、ルーナ先生の気持ちに寄り添いたい!!……どうかな?こんなヘタレな僕だけど」
一緒にいてくれるかな?
「嬉しい……ありがと」
そう言い終えて俯いている彼女に向かって、僕の方から唇を合わせて愛情を込めたキスをした。
相変わらずルカテリーナ様の舌使いは凄く上手かった。
うっとりとして溶けそうな程のテクニックだ。
ルカテリーナ様の腰に回した手が強くしまるから、僕も同じようにする。
僕達の距離は重なり合うくらいに間近。2人でお互いの息を交換しあう。
こうしているだけで幸せな気分になれる。
本日何回目のキスなのか、それはもはやどうでもいいことだ。
「わたくし、公爵令嬢として他のご令嬢達のいる前では、その役割を演じなければいけないのです。その時にクロウル様に嫌な思いをさせるかもしれませんが、どうか、嫌わないでくださいね」
「わかった。それなら大丈夫。僕からも言いたいんだけど……」
僕達はキスを繰り返す。そして語り合う。
どこが好きか。どこに行きたいか。何人の子供が欲しいか。
それは流石に気が早するんじゃと思うけど……。
まあ色々話し合った。そして、お互いの取説を言い合った。
時間が無限にあればいいなと思いつつ、今の満ち足りた時間をキスをして分かち合い、心と身体を寄せ合った。
「クロウル様、大ホール区画に到着しましたわ」
立体映像越しのルカテリーナ様が、僕達の密な時間の終わりを告げた。
自然とお互いの手を繋いだ僕達は
この場所は階層全体が大ホールになっていて、天井もかなり高く、シャンデリアが沢山吊り下がっている。床は細かい彫刻が施された床の上にガラス板が敷きつけられ、規則正しく設置されたガラスの柱が天井部に幾重にも立ち連なっていた。
「わたくしの映像、また見てくださいね」
映像越しの透き通った声が僕の耳に優しく届く。
立体映像越しのルカテリーナ様は、ウエディングドレス姿のまま、軽いカーテシーで優雅に振る舞いお見送りをしていた。
本人を目の前にして、その可憐で儚げな立体映像の姿をしばらく見蕩れてしまった。
「いつか本物を見せて差し上げますわ」
ルカテリーナ様はそう言い終えると、立体映像越しにしか見せてなかった爽やかな笑顔を浮かべ、僕の心をときめかせる。
「それは楽しみだ」
「そういえば、わたくしのウエディングドレス姿を、まだ、褒めてもらっていませんわ」
「今の僕の姿を見てたらわかるでしょ。もう、お持ち帰りしたいくらい綺麗だったよ」
「うれしい……それでしたら、今夜にでもお見せしましょうか?」
「ダーメ。楽しみは取っておかないと」
「そうですか。残念ですわ……ウエディングドレス姿だったら襲ってくれそうだと思ったのに……」
「だから、駄目なの!!まだ結婚してないから一線を越えるのは無しだって言ったよね。貴族社会ってそういうの厳しいんだって。そういうのって、貴族教育を受けたルーナ先生の方が詳しいでしょ」
貴族社会って名誉や格式、仕来たりや上下関係に重きを置くから、下手なことを仕出かすと貴族社会からの制裁があったりする。
自分の犯した罪が、自分だけじゃなく領民にまで波及する場合があるから面倒なんだよ。
確か、実家を引き継ぐ義兄さんからは、一人娘を傷モノにされた貴族家が賠償金を支払うように迫ってくる家もあるそうで、貴族のご令嬢と一線を越えるのは、平民の娘と一夜を共にするのとは次元が違うことだと言われ、より慎重に行動するようにとクドクドお説教を受けたことがある。
他にもこんなことを聞いたことがある。
それは、婚約者の領地が欲しいがために、浮気相手の娘を金で買収して、許婚ご令嬢もグルになって策謀を仕掛けてくる貴族家なんかもあるそうで、婚約者が浮気娘が淫らな行為に及んでいるときに、婚約したご令嬢が現場に踏み込まれ、不貞行為を口実にし、そのまま婚約者の領地を半分差し出すように要求され、終いには婚約解消して賠償金までむしり取る、そんな詐欺師もビックリするような手口を公然と行う貴族家もあるそうだ。
貴族社会は一筋縄ではいかない、とても
安易に女性の色香に惑わされ、口説き落とされ一線を超えようものなら、その後どうなるのか予測がつかないことが多々有り得てしまう。
たとえば、騎士団に強制的に入団させられ、絶対に生きて帰れない魔物討伐を命じられたり。
たとえば、ご令嬢のご両親や親族と果し合いをすることになったり。
実際に知り合いの貴族の友達や、その知り合いがそんな目にあったそうだ。
だから、お互いの合意があったとはいえ、口約束だけでは、一線を超えることはできない。場合によっては実家にまでとばっちりが行く可能性があることも考慮しなければならないし。放蕩息子のせいで家が潰れたなんて、よく耳にすることだから、用心するに越したことはないだろう。
それにルカテリーナ様の実家は、いまや以前にもまして強大な権力を握ることになった公爵家。
何をされるか検討もつかないから、より慎重に成らざるを得ないんだよ。
それに自慢じゃないが僕は童貞だ。
そういう行為はした事がないから、どういう手順を踏むのかもよくわかっていない。
正直なところ、上手く出来るかわからないから、不安なのである。
色々言い訳がましく説明したが、ようするに僕はヘタレだから、まだその一歩を踏み出せないんだ。
「やっぱり本心じゃ、わたしのことが嫌いなんですね。どうせ遊びなんですよね」
「違うよ。真面目にお付き合いしたいと思ってるから……なおさら、大事にしたいと思って」
仲良くなったかと思えば、僕の言動が気に入らないのか、いきなり拗ねてしまったルカテリーナ様を何度もあやしつけて機嫌をとろうとする僕。
すると、ころりと豹変したルカテリーナ様は、先生という言葉がぴったり似合う顔つきになった。
ああ、この顔はもしかして……。
タキシード+ドレス+大ホールってくれば。
もう、わかるよね。
「では、真面目なお付き合いから始めましょうか。クロウル様、いまからここの大ホールでダンスの講習を始めましょうか。よろしいかしら」
そうだよね。そうくるよね。そんな感じがしてたんだ。
ダンスの講習会か~、まあ、そうとしか考えられないからな。
ダンスのレッスンなんて小さい時に無理やり習わされた時以来。
上手く踊れるかわからないけど。まあ、いっかー。
僕のほうからも色々譲歩しなきゃいけないのは、わかってきたし。
「こちらこそ、清いお付き合いだったら喜んで」
「えぇ、クロウル様はダンスを学んでいないと聞き及んでいますから、最初はわたくしがリードしますわ」
ああ、そんな事まで知ってるんだ。
オスカ義母さんもルカテリーナ様を気に入ってそうな様子だったし。
色々ある事無い事、僕の過去を喋ってるんだろうなぁ。
「それと、ダンスをしすぎて疲れたりお腹が空きましたら、端のほうに料理が置かれていますから、疲れたらそちらで一緒に寛いでもよろしいですわね。美味しいワインもありますわよ」
そう言われて見てみると、大ホール内の端のほうで給仕の衣装を着た年若い女性達がテーブル席のほうで食事を運んでいた。
男性陣は一人もいなさそう。何だか全てにおいて徹底してるなあ。
いつの間にかしっとりとした曲がホール内に流れていた。
「では、しっかりわたくしの側によって……そう、左手はわたくしの後ろの肩の下に手を添えて、右手は優しくわたくしの手を繋いで……背筋を伸ばして……では、一度踊ってみましょうか」
最初はルカテリーナ様に優しくリードされ、2人だけの宮廷ダンス講習が始まった。
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