第8話 国から依頼された任務に取り掛かろうとする僕

 ようやく『紅龍の牙』の仕事をやり終えた僕。

 次は国から頼まれた案件に取り掛かろうとするが、


「さてと、何処に建てようか」


 何処に設置しようか悩み考えてみる。

 そんなこと考えてなかったよ。

 頭の片隅に追いやられていたからね。

 王国から設置を依頼された施設だから、其の辺に適当にポイって訳にも行かないからなあ。


「本当に面倒な役目だよなあ」


 道路状に沿うように両側に立ち並ぶ建屋の様子を見て「ふ─」と溜息をつく。


「ここに上手く設置するには、何処に設置すればいいだろう」


 改めてじっくりと、ぼくが疲れた原因を見渡すと……。

 僕の見詰めた先には、まさしく道路があった。

 そう、道路だ。

 長い一本の道路。

 道幅をたっぷり余裕をとったね。

 馬車なんか通りもしない迷宮の中なのに。

 甲羅状の道路の色合いとかも、周囲の建屋と調和するように造り直して。

 なにげに馬車が通る車線とか、歩行者専用レーンの白線まで、しっかり引いてしまった。


【真甲羅】スキルをちょっといじくれば、なんてことはない。

 地盤を平らにしたりなんてことはすぐに出来るし、甲羅状地盤の色合いを変えたりとか、白線まで簡単に引けてしまうのだ。

 

 これらは国道を作り続けた職人の技。

 それが、こんな所で活かされてしまった。

 今回の仕事に点数を付けるとしたら、出来は60点ってところだろうか。

 何故かといえば、していない作業があったから。

 なので辛口点数にせざるを得なかった。


 本来の国道工事だったら照明柱っていう、夜になったら光り輝く甲羅柱を間隔を空けて立てていくんだけど、今回はしなかったからねえ。


 照明柱ってのは、王国の役人さんが名づけた名前ね。


 その甲羅柱は、夜になると魔素を吸収して光が点灯するように念じて作ったら、実際にそうなった偶然の産物なんだけど。


 それを一旦設置すると、きっと歯止めが効かなくなりそうだし。

 いずれは迷宮内のあらゆる場所に設置しなきゃいけなくなるだろ。

 だから、そういうことはしなかったんだ。


 元来、そもそも道路を作る必要も無かったんだけど。

 一旦建屋を設置し始めると、横の線が気になってね。

 そうなると反対側のラインもしっかりしないと気になりだして……。

 いつの間にかこんな風な道路が出来上がってしまった。

 設置位置をピッタシ揃えて建屋を設置していっただけなんだけどなあ。

 道路整備する要領が、どうしても抜けきらなかったらしい。


 仮に〝馬車4台が並び通行出来る道路幅ってそもそも必要なのか?〟と問われたら……。


〝全く必要ないですね〟と答えが返ってきそうな状況だ。


「いいだろ。別に。こんな道路があったってさ」


 自分の考えを肯定したくて思わず口に出てしまった。

 でもさ……。 

 僕にも色々と言い分がある。

 地平線まで伸びる道路ってロマンチックだと思うだろ。

 そう、道路はロマンだ。

 それに人生も道路と同じじゃないか。

 山があれば谷もある。

 道路だったら山にも谷にも造られる。

 それが例えどんな所であろうとも。

 地面さえあれば造れるんだ。

 それと同じ考えでいけば迷宮内にも道路があってもいいじゃないか。

 て、そんな言い分が通ったらいいなと思うけど……。

 設置した後で視察しに来たお役人達に、駄目だしされるのが目に浮かぶ。


 もしそうなったら、決して面白くはないことをグチグチ言われそうだ。

 ここは僕の美意識が試される所かもしれない。

 失敗を成功に変える起死回生の一手が、正にいますぐにでも必要だ。

 

 ──そうだ。


 この並びからすると、道路の突き当たりに施設を設置すれば景観を崩さないんじゃ。


 それならまだいけそうで、配置上、そんなに悪くない感じがする。

 道路の端っこが正面になるように設置すればいいんだよ。

 そうすれば、道路沿いから見て、場所が一目で分かりそうだし。

 なにより、象徴的な配置になると思う。

 景観も悪くなさそうだから、いい案かも。


 ──よし、決めた。それでいこう。

 

 その案を採用した僕はさっそく行動にうつそうとする。

 大通りみたいにポッカリと空いた甲羅状の地盤をコツンコツンと足音を立て歩いていき、そのまま道路の突き当たりへと進んでいくけど……。


 そうして歩いていたら周りを気になりだした。

 いつの間にか、冒険者達が周辺に少しずつ集まりだしている。

 まあ、そりゃぁ、そうだろうなあ。

 安全地帯セーフティーエリアに、こんなに派手な景色の大通りが行き成り出来たら、誰だって気になるのは当然だ。


 そういや、冒険者達がどう思ってるか少し気になるな。

 

 3人の冒険者の集まりにターゲットを絞ると、怪しまれないように建物の隙間に入り込み、その冒険者達の会話に聞き耳を立ててみた。


 隠れているから、冒険者達の表情なんかは一切わからない。

 そのかわり冒険者達の会話が僕の耳に入ってきた。

 

「おいおい、ここの建物は何処のパーティの物なんだ。何か聞いてるか?」


「わかんねえ。誰も居やしねえ。何時の間に出来たんだ。つい、さっきまでは無かったんだぜ」


「そんなことなんかは今はどうでもいいと思うわ。ここの建物には、誰も警備がいないんじゃないの?建物の中にも人がいる気配もなさそうよ………ど─ぉ?わからないかしら。この意味が」


「お─、そうだ。誰もいねえってことは、盗みに入ってもばれやしねえってことじゃねえか」


「どうやらそうなりそうだな。またこの前みたいな、しょうもねえ金持ち御一行の別荘とかじゃねえのか。折角だから、ここのルールを教えてやらないとな」


 その話は、やばいって。

 最後の男の話し声は、特にやばい感じがした。

 取り敢えずは、何を置いても真っ先に距離を取るべきだろう。

 ばれたら何されるかわからない。


 僕は姿勢を大股にして足をしっかり固定させると、すかさず、スキル言語を小声で唱えた。


真甲羅まなこうら


 その言葉を発した瞬間、僕の姿は見る間に姿を変える。

 まずは、全身から甲羅が浮き出ると、その姿は周りの景色の色と同化する。

 それと時を同じくして、足元の灯るように光っていた地面光が弱くなり、地面につけた足がほんの少し浮きあがると、そもままの姿勢で勢いよく後ろに滑しだしていき、かなりのスピードで離れていく。


 冒険者一行から大分離れたのを確かめてから、小さな独り言を呟いた。


「あ─、怖かった。やっぱ冒険者って危ない奴が多いってのは、嘘じゃなかった。もう略奪でもなんでも勝手にしてもいいからさ。そのかわり僕を巻き込むのは止めてくれ」


 今回も僕のスキルに助けられた。 

 今のは【真甲羅】の派生技──『甲羅隠れ』と『甲羅滑り』。

 派生技の名付け親は僕。

 

 甲羅隠れの技は、全身から姿が見えにくい甲羅を浮き立たせる技。

 この技を使うと、全身の浮き出た甲羅は、周りの景色と溶け込むように見えるんだ。

 実はこの技には難点は2つある。

 1つは、全身に浮き出た甲羅が邪魔して指一本も動かせない事。

 1つは、激しく動くと景色に歪みが生じて見えてしまう事。


 甲羅滑りの技は、甲羅状の地盤の上でなら使える派生技。

 甲羅状の地盤に満たした魔力と、足裏を甲羅にした魔力を反発するように操作して、自分を思い通りに音もなく滑るように移動する技なんだ。

 まあ、所謂いわゆる逃げ技ってやつ。

 この2つの派生技は、潜伏したい状況下では打って付けの技といえそうで、今が潜伏したい状況下だから、いまだ、2つの派生技を解除してないでいる。


 何故、派生技を解除していないか、言わなくてもわかるだろう。


 そうさ、こそこそしながら作業するのって面白いからね。

 誰にも見つからないように遊ぶのって楽しいじゃないか。

 今だって、僕の存在なんか気づかずに、素通りしていく冒険者達の姿をみると笑みがでる。

 

 今の通り過ぎていく人達は、女の子達のパーティだった。

 

「また、新しいクランが来たのかもしれないねえ」

「魅力的な男がいれば、今度こそモノにするんだ」

「アタイも負けないからね」


 こんな赤裸々な会話も、何気なく聞こえてしまうから超楽しい。 

 道路沿いに見に来る冒険者達からばれずに進んでいくのは、スリル満点でウキウキする。


 まあ、あんまり遊びすぎると時間がなくなるから、今日はこの辺で。

 次はもっと暇なときに、こんな風な派生技を使って遊びつくそう。

 道路の突き当たりまでもうすぐだから、真面目に仕事をするか。

 

「真甲羅」


 言い慣れたスキル言語を唱え、また派生技の『甲羅滑り』で移動を開始した。 


 地面から浮かんで滑るように移動するのは、ゲームをしているように感じる。

 徐々に集まってくる冒険者達を華麗にスルーしながら、進んでいく。

 僕の通った甲羅地盤には、光る足跡の軌跡が微かに残ったけど、直ぐに残像のように掻き消えていった。

 

「周りの景観からいって、ここらへんが良さそうだな」


 目的地についた僕は、国から預かった長距離転移施設──『ゲートタワー』をスキル検索にかけて、ヒットした施設に座標を指定すると、アイテムボックスから取り出した。


 すると、その効果は直ぐに現れ……。

 指定した座標から少し離れた地表面から、浮き出て盛り上がるように『ゲートタワー』が現れていく。


 その全容は、鏡のような材質で造られた円状の塔だった。


 設置した場所は、思っていたよりも道路の端の建屋から、少し離れた場所になった。

 おそらく『ゲートタワー』をアイテムボックスにしまうさいに、座標総面積を大きくしすぎて収納したのが原因だろう。


 それで取り出すときに指定した座標とくるいがでたのだと思う。

 あまり他の建屋が近くにありすぎると、塔から転移してきた人達が邪魔に感じるかもしれないから、まあ、結果オーライってことにしよう。


 それよりも……。


「うわ~、やっぱ高すぎだろ。この施設。こんなに高すぎる必要ってあるのか?」


 ここの安全地帯はかなり広々と広がった開けた空間なんだけど、何処からでも見えそうなくらいの高さがあった。事前に聴いた説明だと確か60階もある高層タワーだと聞いている。

 なので高さを支えるから横幅もとんでもなくだだっ広い。

 そりゃぁ、座標指定もくるうよ。こんだけ巨大だったら。

 安全地帯の天井部はもっと高いから、問題ないとはいえ。


 これは流石に目立ち過ぎだ。

 騒ぎ始めた冒険者達の姿を、チラチラと気にはしてたけど。


 ほら、やっぱり……。


 遠くに見える冒険者達は大歓声を上げていた。


「「「うお──」」」


 その歓声は僕のいる方にまで届く。


 好奇心旺盛な冒険者達は、いきなり姿を現した巨大な塔を、もっと間近でみようと集まってくるように見える。


 軍用テントの中に入っていた冒険者達も、周りの歓声につられて次々にテントから出てきては、歓声の声を上げていくのが見えた。


「これは、やばい」


 人が集まって来る前に、この転移施設の中に逃げ込もうと直ぐに行動を起こす。


 まずは一旦スキルを解除する。

 すると、全身に浮き出ていた甲羅が、光の粒子となって溶けるように消えていく。


 自由に動けるようになった僕は、鏡で出来たような出入り口の扉の前に立つと、扉に両手をかざして手に魔力を注ぎ込みながら「真甲羅」と唱えた。


 スキル効果は直ぐに目に見えた形をみせる。

 鏡ばりの扉は、僕の望んだ通りの姿──甲羅扉に変化した。


 仕掛けはこれで終わらない。

 僕のかざした両手も徐々に甲羅化し、同時に甲羅の扉に吸い込まれるように埋まっていき、僕自身も両腕から広がっていく甲羅化が全身に及ぶと、甲羅の扉に吸い込まれるように消えていく。

 

 3歩ほど滑り進んだ僕は、ゲートタワーの扉をすり抜けると、自分の甲羅化もすぐに光を伴い溶けていく。


「侵入成功。へ──、室内は魔力供給をしてなくても明るいんだ」


 扉を開けずに『ゲートタワー』内部に侵入を果たした僕。

 今のも派生技で、技名は『甲羅同化』。

 効果は甲羅状にした物質を、素通ししたように通り抜けることが出来る技。


 侵入を果たした僕は振り返るとまた扉に両手をかざして手に魔力を注ぎ「スキル解除」と唱えた。

 すると、甲羅扉へと変化した姿が、光の粒子を撒き散らし、元の鏡ばりの扉に戻る。

 

「凄いな──この外壁と扉!!内側からだとガラスになったように、外が見渡せる」

 

 塔の内部では、ガラス張りのような円状の外壁にそうように、横幅が広い吹き抜け格子状の階段が、上の方まで続いている。


 入口から入った先は一方向にいく通路しかなく、その通路は右に緩くカープするように続き、左が上の階にいく格子状の階段があった。

 

 床面は灰色タイルで覆われ、内部の白い壁面には、白を基調とした大理石状の柱が等間隔で設置され、大きく開けた空間通路が続いていた。


 柱や壁には装飾なんかは一切なくて、シンプルな機能美が感じとれる。

 階段には上がらずに、円状に緩くカーブしていく通路のほうへと進んでいく。

 そんな横幅が十分に確保された内部通路をキョロキョロと見渡しながら進んでいくと、やがて塔中央部にある大部屋が見えてくる。

 塔中央部の部屋に入るとそこは、天井部が見えない吹き抜けの部屋だった。


 ここが転移陣が設置された部屋だ。

 部屋の中にはいたる所に魔法陣の形が描かれていた。

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