第3話:隣の席の元カノ
「…………」
「…………」
お互いが何者であるかを知り、無言のまま見つめ合う。
「おーい、そこの二人ー。早速仲良くするのは構わんがイチャつくならホームルーム終わってからにしてくれー」
「っ!?」
「ぁ……」
先生の一言でクラスに笑いが起きる。
俺たちは二人とも小さくなって、残りの先生からのお知らせを聞いた。
隣のカノジョは恨めしそうにこちらを睨んでいる。
なんだよ、俺のせいかよ。
それにしてもなんの嫌がらせだよ。
なんで元カノが転校してくるわけ? しかも、なんでギャル化してんだよ。
カラコンまで付けて……その派手な髪色。なんなんだよ、畜生。変わりすぎだろ、見た目も性格も。
俺の頭はプチパニック。
俺は昔、カノジョに言った言葉を思い出していた。
『結亜の黒い髪、すごく綺麗だな』
ああ、ほんとなんだよ。俺がああ言ったからか? それだけあの頃の記憶消したかったのか?
俺は何も言っていない元カノに対して酷く、勝手な被害妄想をした。
やっぱり結亜は俺のことを──。
しかし、隣って……まさか教科書とか見せないといけないとかないよな? ちゃんと持ってるよな?
ただでさえ、気まずいのに……ギャルになってるし……不機嫌オーラ出すし……これだからギャルは……。
「それじゃ、これでホームルームを終わりまーす。まだ転校初日で夢野は教科書もってないから、お隣の『ギャルに話しかけるのこえー』って感じてる綾辻くんに見せてもらえなー」
「いい加減、勝手に心の中を読むのやめてくれます?」
そうしてホームルームを終えた怠慢教師は教室を出て行った。
ホームルームを終えてから、次の授業が始まるまで十分ほどの猶予がある。
その間に一気に隣の結亜にクラスメイトが詰め寄った。
「夢野さんどこから来たの?」
「好きな食べ物は!?」
「好きなタイプは!?」
「俺を罵ってください!!」
「かわいいね! どこの化粧品使ってる!?」
などなど。転校生の定番といえば、定番だな。質問地獄。懐かしい。
しかも一人、変態が混じってやがる。星矢に違いない。
「わわっ! ま、待って! そんなに一気に来られても!!」
結亜は、そんなクラスメイトに戸惑っていた。
「綾辻くんはいかなくていいの?」
そんな結亜を横目で見ていた俺にクラスの委員長である、
入江さんはこのクラスを、いや学年を代表するような清楚系美少女。俺もストライクゾーンど真ん中だったりする。別に好きだとかいうわけではない。面倒見のいい彼女は、地味な俺にでも優しく平等に話しかけてくれる。
「別にいーよ。隣だしいつでも聞けるし。それにギャルって苦手だし……」
そう言った瞬間だった。
「はぁ!? 何それ!?」
え?
先ほどまで隣で囲まれていたカノジョが俺を見て、大きな声を出してそう言った。
お、俺に言ったのか?
周りを囲っていたクラスメイトもこちらを見つめる。
「なに? 私へのあてつけ?」
「そうだよ! 綾辻はギャルのどこが嫌なんだし! こんなに桐乃もゆありんもかわいいのに!!」
そう言って、早速、カノジョを変なあだ名で呼ぶ、派手な金髪をした女子、
くそ……周りの視線が痛い……。いつの間にそんな仲に? やっぱりギャルってそういうの早い。
「い、いや。そうじゃなくてな。俺は、ただギャルが苦手と、別にゆ……夢野さんが苦手って言ったわけではないよ」
「ふーん……ギャルが苦手ねぇ? 朝、私のスカートを捲ろうとしたくせに?」
「!?」
クラスメイトの視線が突き刺さる。ああ……。
「ま、待てこれはだな……深いわけがあってだな」
「女子のスカートを捲るのにどんな深いわけがあるってわけ? 流石にドン引きなんですけど。ゆありんに謝って!!」
終わった。これまで築いてきた俺の人畜無害という評価がたった一時間にも満たない転校生の一言で覆されてしまった。やってくれたな……。
紀坂の言葉を筆頭に女子たちは皆俺を、ゴミ屑を見るような目で見てくる。
女子たちは口々に「夢野さんかわいそー」と言っている。
男どもは、「夢野さんの……を……許せん」と憤慨していた。
「はいはい! そこまで! きっと何か事情があるみたいだからそれは私から聞いておくよ! もうすぐ休み時間も終わっちゃうからみんな席に戻りなよー!」
委員長の一声でクラスメイトたちはみな返事をし、蜘蛛の子を散らすように一斉に自分の席へと戻って行った。
流石委員長。人徳が違う。
「ありがとう、委員長」
「どういたしまして。でもその深いわけっていうのは後で聞かせて欲しいな」
「ああ……」
「うん、じゃあね!」
委員長は素敵な笑顔を振りまいて自席へと戻っていった。ああ、俺の汚れきった心が癒されていく。天使かよ。
委員長ならきっと信じてくれるはずだ。
しかし、隣を見るとそんな俺に軽蔑した眼差しをカノジョは送っていた。
「ふん!!!」
すっかり不機嫌になってしまった。何もかも変わりすぎだ。
あの大人しい、結亜はどこへ行ったんだよ。こんなに強い言葉を使う子じゃなかったんだけどな……。
それからすぐ、数学の先生が教室に入ってきて、授業が始まった。
隣をちらりと見るとカノジョはすぐにカバンから筆記用具を取り出した。偏見だが、ギャルという人種は勉強が嫌いだ。変わってしまった結亜もそうなのかと思ったが、意外にも今のところは真面目に授業を受ける様子。
いかん、いかん。俺もただでさえ、頭がいいというわけではない。だから授業くらい真面目に聞かなくては。隣にいるギャルになってしまった元カノから前に立つハゲた先生へと思考をシフトした。
だが、どういうわけかカノジョはこちらをチラチラ、チラチラと見てくる。
なんだよ? 何か用があるならそっちから話しかけてくれ。さっきのこともあるから用を聞きづらかった。
「ねぇ……」
「な、なんだ?」
「何、声上ずってんの? キモ……」
遠慮なく俺を気持ち悪いと言ってくる彼女は、まさしく俺の嫌いなギャルそのもの。そうか、そんなに俺が嫌いなら、俺だって。
「……しょ」
「ああ? なんだよ? ハッキリ言え」
俺だって遠慮なく、言ってやるよ。もう昔の結亜はいない。これからはこいつは俺の嫌いなギャルとしか思わない!
「教科書!! ないっていってたでしょ! みせてよ!!」
「おまっ!?」
いきなり大きな声を出すものだからまたもやクラスの注目を集めてしまった。
「あー、転校生の夢野さんだったね。綾辻くん、意地悪しないでちゃんと教科書見せてあげなさい」
クスクスと笑いが起こる。
意地悪って……あの、ハゲネズミめ、余計なことを……。
「ほらよ。これでいいんだろ」
俺は席をカノジョの席にくっつけ、真ん中に教科書を置いた。
「……悪かったわよ、大きな声出して。後……がと」
ツンとして彼女はそう言ってそっぽを向いた。頬が薄ピンクに染まるその顔は昔見たのと同じような照れた表情だった。
……ああ、くそ。これだから……。
「別にいい」
俺もそれに対して素直になれないぶっきらぼうな言葉で返した。先程の決意がほんの少し、崩れそうになった。
それからも一日、俺たちは無言で授業を受け続けた。
───────
後書き
嘘ついてごめんなさい。
昨日22時ごろあげるって言ってたのに、忘れてた……。
ということで本日は、19時ごろ、もう一話あげたいと思います。
今度こそ、嘘じゃないぞッ!
後、感想とかコメントくれると嬉しいです。
フォローと星も……。
よろしくお願い致します。
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