第2話:元カノとの再会
学校へ着いてから教室の様子がざわざわと何やら騒がしい。
「なぁ、聞いたか? 今日転校生来るって!! しかも、うちのクラス!」
「転校生?」
俺に話しかけてきたのは、
「そうそう! しかもギャルらしい!! やっべ、興奮してきた!!」
そしてギャルというだけで興奮を覚える変態でもある。見た目がいいだけに残念極まりない。後で彼女にチクってやる。
それにしてもギャルか。今朝の彼女がフラッシュバックした。
確かに見たことのない子だったな。いや……どこかで見たことはある気がするんだが、ここじゃないどこか……どこだったか。俺は過去の記憶を探るも、脳内データベースにあんなギャルは存在しなかった。
まさか彼女が転校生……? そんな偶然あるか? いやでもな……そうだとしたら非常にまずい。俺は彼女の中でただの変態と化している。しかも相手はあのギャル。ギャルといえば、声がでかい。ヘタをしたら俺が変態だってクラス中に言い広められてしまう。それだけは阻止せねば……。
「それにしても今日のお前、ただの不審者だな」
「うぐっ……」
朝もあのギャルに言われたことが刺さる。やっぱりそうだよな。
「ほっとけ……はっくしょい!!」
俺は精一杯そう返して、勢いよくくしゃみをした。
そしてついにホームルームの時間がやってきて教壇に担任の
「今日はこのクラスに新しいメンバーが一人増える」
先生の一言にクラスは大興奮。噂があったとはいえ、一気に騒がしくなった。
「うーい、静かにしろー。興奮するのは、女子のスカートが捲れ上がったときだけにしろ」
先生の言葉じゃねぇ。女子もドン引きである。俺は決して興奮してないからな、うん。
「それじゃあ、入ってこーい」
先生は廊下に向かって転校生を招き入れる。
そんな言葉を言われた後にどんな顔して入ってくればいいのか。転校生が気の毒だった。
一方俺は、転校生が朝の彼女でないことを祈った。
教室に入ってきた瞬間、一度静かになった教室がまたざわざわとし始めた。特に男子。
なんせ、入ってきた彼女がかなりの美少女だったからな。先生が先ほどいらぬ言葉を放ったせいで少し、複雑な顔をしていた。
「マジか……」
しかし、予想っていうのは良い方に当たらないもの。やっぱり、朝のあのギャルが転校生だった。俺は焦燥に駆られた。
「初めまして」
頭を下げ、ギャルにしては意外にも丁寧に挨拶したその彼女の名前は──。
「
──俺が中学の時に別れた元カノと同じ名前だった。
あの頃の記憶が鮮明に蘇ってくる。
「運命」の歯車がカチリと音を立てて動き出した気がした。
◆
俺の記憶の中にある元彼女、結亜の姿は綺麗な艶のある黒髪に笑った時にくしゃっとなる柔らかな目尻が印象的だった。それはそれは綺麗な俺の大好きな笑顔だった。
丈の短いスカートを履く彼女を自席から見つめる。
はっはっは、ま、まさかな? 同姓同名なだけさ。他人の空似。そうに決まってる。そもそも結亜はギャルとは程遠い、清楚で大人しいタイプの子だった。あんな真っ新な制服を着崩して、胸元を軽く露出するような格好なんて絶対にしないし、短いスカートも恥ずかしがって履かなかった。
……それにあんなに胸は大きくなかった。あのギャルは……Fくらいか? でかい。
「じゃあ、転校生の席は、『あ、転校生の胸、Fカップくらいだな』って考えてる綾辻の隣な」
「アンタ正気か!? 悪意ありすぎだろっ!!」
なんじゃあの、クソ教師!! 俺のクラスでの立ち位置分かってんの!? 思わずツッコんでしまった。しかも俺だけならいざ知らず、転校生までダメージ受けてるからね? 顔真っ赤なの気がついてる?
彼女はクソ教師に促されるとゆっくりと俺の席の前で一瞬止まるとその後、隣の席に座った。
そして俺の顔見て、顔を歪めて言った。
「……朝の変態……」
「とりあえず、話を聞いてくれ。落ち着いて話し合おう」
「変態なんかと話し合うことなんてないし」
くそ。取り付く島もない。彼女はまるでこちらの話を聞こうとしない。言われっぱなしでシャクだがファーストコンタクトが最悪なだけに慎重に行かねば。ステイクール。
「朝のは誤解なんだ。えっと、夢野さん? のスカートが捲れ上がってたから直そうと」
「そんな言い訳通用すると思ってるの? まず見た目から怪しいし、普通にキモいから話しかけないで」
こいつ──っ!!
顔が引くつく。こっちが下手に出てれば調子づきやがってっ!!
それにこの感じ……やっぱり、こいつは元カノじゃない。絶対違う。確信したね。
「誰がっ! この格好は花粉症だから仕方なく……それに誤解だって。誰が好き好んでギャルの……なんか見るかよ!!」
周りにバレないように小さな声で叫ぶという器用な真似をする俺。
どうみても不審者な俺が悪いが、決して悪意があったわけではない。それを話を聞かずに一方的に悪だと決めつける。これだからギャルは嫌いなのだ。
「そんなこと言って見ようとしていたのは事実じゃない」
「だからそれは誤解だって。スカートが捲れてたから戻してあげようとしたって言ってんだろ!!」
「どーだか。それにもし、それが事実なら普通声かけるでしょ。いくらそんな地味な見た目してるからっていきなり隣に引っ越してきたかわいい女子のスカート覗こうとする? どんだけ飢えてんの、気持ち悪いんですけど。これだからモテない男は嫌なの」
なんだと……!? そこまで言うか!? 俺がモテないなんて何で知っている!!
これだから……!! ギャル特有の有無も言わせないマシンガントークに気圧されてしまう。しかし、俺も負けじと言い返す。
「そもそもそんな短いスカートを履いてんだから見てくれって言ってるようなもんだろ! それが嫌なら、長く履けばいいだけだろ。後言っておくけど、お前のパンツになんてこれっぽっちも興味ないわ!!」
「はぁ!? 別にあんたに見せるために短くしてるんじゃないんですけど。しかもそれって痴漢常習犯の考え方よね? 普通に気持ち悪いんですけど。発情するのは勝手だけど、私に迷惑はかけないでね。変態」
「くっ、この……」
つ、強い。ギャルって口喧嘩が強い。別に負けてるとは思わんが、引き下がる気配がない。しかし、勢い任せに俺も不味いことをいったという自覚はある。こんなの他の女子に聞かれたら反感を買うどころじゃない。謝っておこう。ごめんなさい。
「それにしたってこんな地味男が隣とか最悪……」
「こっちだってクソビッチギャルなんて御免だね。チッ、頼むから横で化粧とかしないでくれよな。粉とか飛んできそうだ」
「誰がビッチよ! あんたこそ、その長ったらしい髪の毛不潔そうね。お願いだからフケとか飛ばさないでよ。ちゃんと切ったらどう?」
「なっ!? うるせぇ、放っとけ!」
「それとも何? 視線合わすのが恥ずかしいわけ? コミュ障ってやつ? ほら、ちゃんと目を合わせて意見言ってみなさい」
「あ、こら、やめろ!!」
彼女は俺を小馬鹿にしたように笑いながら、メガネを奪い、前髪を無理やり掻き上げようと手を伸ばしてきた。
これだから、ギャルはっ!! この遠慮のない感じが堪らなく嫌だ。フケとばすぞ、オラァッ。
しかし、俺の抵抗も虚しく、彼女は俺の髪を無理やり掻き上げる。
そして露わになった俺の目と彼女の紺の瞳が交差した。女子と目を合わせるなんて久しぶりの感覚に戸惑う。しかし、俺のなんとも言えない反応とは違い、彼女はみるみるうちに顔色を変えていった。
「……綾、人く……ん?」
「ッ!? ……結亜……」
彼女は顔を酷く歪ませた。そして懐かしい呼び方で俺を呼んだ。
気づいてしまった。否、気づかされた。
わかっていた。どことなく、面影は感じていた。ただ、認めたくなかった。俺の中の彼女との大切な思い出が壊れるような気がして。二年越しにあった君はあまりに俺の中の君とかけ離れていたから。
やはり、彼女、夢野結亜は俺の中学の頃付き合っていた、彼女であった。
────────
後書き
みなさん、新作をお読みいただきありがとうございます。
本日、後もう1話更新を予定しております。
まだ2話ですが、おもしろいと思っていただけましたら、ぜひぜひ、フォローやコメント、星などをよろしくお願い致します。
作者のやる気につながります。
もう1話更新は22時ごろを予定しております。
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