70日目 刈り取られるコシヒカリ
陽の光を浴びている。
秋の太陽が、黄金色に染まった大地をやわらかく照らす。
――実るほど 頭を垂れる 稲穂かな
そんな句の通りに立派に成長した稲が、風で揺れてさわさわと音を発している。
前も、後ろも、右も、左も。
そう。俺は、田んぼの真っ只中でぷらぷらと揺れていた。稲の一粒になって。
真っ赤なアキアカネが、俺の上をふいっと飛んでいく。
……今日も動けない。神様を殴るのは厳しそうだ。
今日はこのまま風に揺られて過ごすのも悪くないかもな――なんて思い始めた頃、田んぼの隅で、エンジン音が聞こえた。
赤い車体。白い爪。中には人が乗っている。
俺、あれ知ってるぞ。コンバインってやつだろ。
どうやら今日の俺は、刈り取られる運命らしい。
昔は手でひとつひとつ刈り取っていた束を、今では機械を動かすだけでまとめて何列も刈り取れちゃうんだから、すごい時代だ。
なんて現実逃避をしていると、ついに俺の株がいる列までコンバインがやってきた。
重さで倒れ気味になっていた稲がぐぐっと引き起こされ、根元からすぱっと刈られる。隣と一緒に。俺も当然、くっついている稲の一粒なわけだから、そのまま脱穀部分に運ばれていく。なんかぐるぐる回っててこわいんだけど。大丈夫これ?
そう思っていても抜け出せるはずもなく、俺は脱穀部に吸い込まれる。なんか金属のループみたいなのを使って籾を落とすらしい。当然俺も落とされ、網を通って下へ落ち――ててててて!
ここは地面が揺れている、めっちゃ跳ねてる。混ざった藁は選別され、俺たち籾だけが集められる。なんか扇風機みたいな風を一瞬感じた後、粒だけになった俺たちは袋に詰め込まれた。すぐに上から別の籾が降ってきて、何も見えなくなる。
しばらく後、俺はすげー熱い機械に放り込まれて、灼熱地獄を体感することになる。
たぶんあれ、乾燥機なんだろうな。
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