57日目 ベビーカー
赤ん坊の泣き声で目が覚めた。
「あー……よーしよしよし」
俺は地面に四つ足……四つ足? うーん……ともかく4本の足で立っており、先ほどまでは前に進んでいたのだけれど今はいったん止まっている。自力では動けない。
後ろの方――背中のあたりには何かがぶら下がっている感覚があり、胸の前に抱いていたものをゆるっとしたワンピースの女性が自ら持ち上げ……うん。もうわかる。
今日の俺は、ベビーカーであるらしい。
神様を殴ってやるどころか、赤ん坊に暴れられるのが関の山である。世の中ままならないものだ。
……ママなら目の前にいるけどな!
さて。あたりを見回す。
ママは赤ん坊を俺に乗せるのを諦め、抱っこしながら歩き始めたので、俺は心おきなく周囲の様子を窺うことができた。
……のどかである。
気候的には、春だろうか。どことなくやわらかい陽光が俺も照らし、植物は青々と茂り、眠くは……なってこないな。今日の俺は生物じゃないのだから。
さっき泣きはじめた赤ちゃんは今はママの腕の中で抱かれて、きゃっきゃと飛ぶ鳩を見て笑っている。
……のどかだなあ?
俺は4本の足を――キャスターを転がし、少しでこぼこした公園の道で、彼ら母子の一歩前をゆくのだった。
……たまには、こんな日があったっていい。
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