24日目 キャベツ(無農薬栽培)

 目が覚めたら、気持ちいい陽光に照らされていた。


 栄養豊富で湿った黒色の土がどこまでも続く地面に、緑色の塊が等間隔で並んでいる。

 小学校の時、学校の片隅で育てていたのを見たことがある。ここまでたくさん並んでいるのは、はじめてだけれど。

 どうやら――今日の俺は、キャベツ畑のキャベツになってしまったようだ。神様を殴ってやるのは、ちょっと厳しそう。


 朝、らしい。

 俺の身(というか葉か)と周りのキャベツどもは朝露でいくらか湿っており、空気はひんやりとまだ冷たい。太陽の高さからすると……8時、9時、それくらいだろうか? 日光を浴びて体が温まると同時に、全身にじわりじわりと満足感が押し寄せる。満腹感に近い、満足感。休日に昼食を食べた後、どこかに横になってまどろむ感覚に近い。

 ……これ、光合成か。日光浴びて、養分作ってるから、満足感があるのか。

 ほへー。植物ってこんな思いしてたんだな。けっこう気持ちいい。


 そんな風にぽけーっとしている俺を、ひとつの違和感が襲う。

 例えるなら――髪をつまんで抜かれたような、そんな痛さ。俺の葉が、何かによって、傷つけられたのだと思う。自分の方見えないけど。

 一度で終わったのなら気のせいだろうと思うけれど、繰り返し痛みが走るとなると、もうこれは偶然ではない。右の脇腹くらいに相当するところの葉を、少しずつ痛みが移動している。


 ……移動、している?

 なんだろ、これ。

 ちくちくと身を苛む痛みに耐えながら空を見ると、モンシロチョウがひらひらと飛んでいる。ペアだ。2匹のチョウが、お互いを意識しているのかは分からないけれど、俺たちキャベツの上を自由に舞っている。

 いいなー。そろそろ俺も自由に動き回れる奴になりたいよ。


 ……と。愚痴はその辺にして。

 あれだ。

 この痛さ、たぶん、あいつらが原因だ。

 小学校で習った記憶がある。モンシロチョウの幼虫であるところの、アオムシ。あれは確か、アブラナ科の植物の葉が主食で、その代表例がキャベツである。

 つまり俺。


 なるほどな?

 俺についた幼虫が死なずに元気に俺をバリボリ貪ってるってことは、この畑は無農薬栽培の高級キャベツってわけだ。なるほどな?

 ……えっ何。俺、こいつが満腹になるまで微妙な痛さに耐えなきゃならんの?


 ……うへえ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る