25日目 大黒柱

 目が覚めたら、めちゃくちゃ強い力で押さえつけられていた。

 体はびくともしない。や、そもそもこの体動かなそうなんだけど、仮に可動域があったとしても動けないくらい強い力が俺の体にかかっている。

 俺の体が一本の棒になっていて、頭の上から重さをかけられているような感じ。イメージとしてはアフリカの人が頭の上に荷物載せるあれだけれど、やったことないけどあれの100倍くらい重いんじゃないかと思う。やばい。

 それに加えて、人間でいうと首くらいの高さに、四方から力がかかっている。前後左右から同じくらいの力で押されているが故、釣り合っている、みたいな。


 と、やたら押さえつけられている割には、体はあんまり痛くない。裂けそうな感じも、折れそうな感じもない。

 足元も、力こそかかっている感じはあるけれど、別に特に支障があるわけじゃない。あるべきものが、あるべき姿になっている感じ。

 人の身だったらとっくに潰れているんだけれど、今日の俺なら問題なさそうだ。


 目を開く。土間。畳。囲炉裏。自在鉤。竈。床の間。

 テレビで見るような「古民家」が、そこにはあった。

 ここまでくれば、もう分かる。


 今日の俺は、柱だ。鬼を斬る方の柱じゃなくて、家を支える方の柱。動けるはずもない。俺が動いたら家が崩れる。

 ……今日も、神様をぶん殴ってやるのは難しそうだ。


 ◇ ◇ ◇


 しばらく家を支えていると、玄関の戸が開いた。

 青色の着物? 和服? なんて呼べばいいか分かんないけど、なんとなく江戸時代の浮世絵に出てくる庶民の服を着た四人家族が入ってくる。男性と女性、それに男の子がふたり。どこかに出かけた帰りだろうか。


「ほれ、太郎吉、次郎吉も、そこ立て。正月だべ」


 男はどこから小刀を持ち出し、ふたりの子に告げる。


「太郎吉ももう九つですね」


「早えもんよ」


 ……ん? リアル江戸時代?

 現代じゃないの? そういうこともあるんだ。まあ異世界あるし、なんでもありなんだな。

 男の子のうち大きい方が、に背中を当てる。


「去年はここだから……伸びた分は二寸ってとこか? ほんと、体だきゃあ丈夫だなあ」


 ちょっおま痛! いきなり削るなよ! わかるけど!

 子供の成長記録なんだな! わかるけどさ。わかるけど人に刃を突き立てる時には配慮ってもんが……今の俺、柱だから仕方ないか。ぐすん。


「おらは?」


「次郎吉もおんなじだ。二寸二寸」


 だから痛い!


「兄貴より高くなれる?」


「それは分からんべ」


 弟の方も測ったけれど、まだまだふたりとも成長期らしい。がんばってほしい。牛乳……は手に入るか分からんから、小魚いっぱい食べるといいよ。


「まだしばらくは負けんからな」


「へん、兄貴なんてちょちょいの長助だよ」


 ま、こうやって家族の団欒のネタになるのなら、俺が身を削られた意味もあったかもしれない。

 病気とかかからず、健康に生きていってほしいものだ。

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