23日目 小数点

「……おい! おい!」


 話しかけられて、目が覚めた。


「へ?」


「お前だよ新入り!」


「はい?」


 また薄い膜に貼り付けられているような俺だけれど、声は隣から聞こえてくる。

 そっちを「見る」ことができそうな感覚はあるのだけれど、どうやって見ればいいか分からん。うーん……


「お、やっと気付いたな。文字ははじめてか?」


「はい?」


 見れた。半透明な数字の「3」が紙から半分剥がれて、俺の方を向いていた。

 ……はい?


「あんまり時間ないから、手短に話すで」


 3のおっちゃんの話を聞いた結果、次のことがわかった。


・俺らは紙の上に書かれた数字(?)

・俺らに意識があるのは、人間が見た時に意味を伝えるため(?)

・そのため、見られない時間が長くなると俺らの意識は途絶える(?)


 なんじゃそりゃ。こりゃあ神様ぶん殴るのは無理だ。

 で? えっじゃあ何。俺らが文字読んでたのって、文字たちからの思念を受け取ってたの? 俺らが自分の意識で判断して読んでたわけじゃないの?


「補助や、補助。同じ文字でもニュアンスの違いがあるだろう? それは俺らの仕事や」


 ……まじかー。


「怨みの籠もった文字とかあったやろ? それはそういうことや」


「なるほど?」


 魔道書とかは、たぶん特別意味と意識が込められた書物なんだろう。怨念かもしれないけど。

 というか、おっちゃん詳しいな?


「伊達に100年は数字やっとらんで」


 数字専門なんだ……

 というか、小数点の仕事って何? どういう意志を送ればいいの?


「いや、お前は何もせんでいい。覗き込んでくる奴の目を見返せば大丈夫や」


 なんだその超理論。


「お、来るぞ」


 ◇ ◇ ◇


 4月中旬。午前10時。

 学校の身体検査の最中の麻衣は、担当の看護師さんから渡された紙を持って深呼吸していた。


「ふー……」


 自分で言うのもあれだけど、春休みは相当だらけていた自覚がある。徹夜したり、昼まで寝たり、夜食食べたり。うん。

 見たくない。

 けど、見なきゃ。


 ちらっ。


ごじゅうさんてん53.はち8……」


 増えている。

 統計データの平均も超えている。


「ダイエット、がんばろ……」


 紙に書かれた数字たちが、応援してくれている気がした。

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