3日目 アサリ

 目が覚めたら、真っ暗だった。

 でも、布団の中みたいな安心感。「今の俺にとって、現状がベストポジションである」という確信がある。


 まいにち転生生活、3日目。

 とにかく、今日も何かに転生したらしい。


 昨日の雲はよかった。絶景だった。

 元人間としては、やっぱり視覚情報の大切さを訴えたい。ヒトが得る情報の8割以上は視覚だと聞いたことがある。「見る」というのは、それだけ大事なんだ。

 だから、「今の俺の体」にとってはこの見えない状況が自然であっても、「中身の俺の魂」にとっては、こうやって真っ暗闇な状態はだいぶストレスである。何も見えないもん。


 でもまあ、悪いことばかりでもない。

 今日は、体が動かせる。人間とは全然違う体だからよく分からないけれど、とにかく、この体には筋肉があって神経も通っている。今日の体は、とにかく生物であるらしかった。

 ……うーん。

 なんだろう、この体。

 何も見えないから、昨日おとといみたいに鏡で答え合わせはできない。俺は、身体感覚だけで自分の転生先を当てなければならないのだ。なんか、毎日クイズ解いてるみたいだな。


 えー。

 まず、腹と背中に、なんか固いものがくっついてる気がする。亀の甲羅が両側にある、といえば伝わるだろうか? その板自体は変形しないけれど、俺が中から押すとちょっとは開いたり閉じたりする、みたいな。

 で、その固いものごと布団みたいなところに埋まっていて――ああ、でもよく考えたら今の俺直立状態だな、頭が上側にあるけどこれが一番落ち着く――頭の側には管を2本伸ばしている。

 シュノーケルみたいな管なんだけど俺の体の一部で、なんだろう、バンザイをしている腕の2本が中空、みたいな感じかな。この2本の腕で今俺は呼吸をしている感覚がある。


 わかってきたぞ。

 今日の俺は二枚貝だ。砂の中潜るタイプの。

 俺をこんな目に遭わせた神様をぶん殴るのは、今日も難しそうだ。


 ◇ ◇ ◇


 呼吸といっしょに餌のプランクトンも入ってくるし、今日はこのままだらだらしてればいいかなあと、思ったんだけれど。

 干潮(感覚で分かる)になったら、なんかパシャパシャ音が聞こえるんだよね。砂ごと地面が揺れたり、なんなら砂にざくざく何かを突き込まれている感じもある。


 もしかしてこれ、潮干狩りされてるのでは?

 人生初の潮干狩り、狩られる側だとは思っていなかった。

 どうすっぺ、これ。


「ママー! とれた!」


 あっ。

 気付いたときには遅かった。そもそも対応のしようがないけど。

 俺は熊手に引っ掛かり、見事に幼女の手にキャッチされる。


「きれいなアサリね。さ、もっととりましょ」


「うん!」


 ちゃぽん。バケツに投げ込まれるアサリ

 答え合わせができたのはいいけどさ、俺、この後食べられちゃいそうだよねこれ。


 ……痛いのかな? 寝てればなんとかなるかな?

 やだなあ……

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