第六冊 マキャベリ『君主論』

【読む前の状態】

 『君主論』って、要は王様論ってこと?

 そんなものわたしが読んで何になるのだろう。

 名もなき一般市民のわたしが、君主とはこうあるべきだ! みたいなの学んでどうするんだ。 王様になれるわけでもないのに。

 もっともなりたいとも思わないけど。

 いったいどうして『百分de名著』はこの本を取り上げたんだろう?


 マキャベリさん、初めまして。ルネサンス期のイタリアの方ですか。結構昔のひとなんですね。ルネサンス期ってことはもしかしてレオナルド・ダ・ヴィンチとかとお知り合いですか?


【それではいざ実読!】

 アレクサ、百分のタイマーして!


【百分後】

 アレクサ、ストップ!

 

 読めたのは全体の52%。

 全部で二十六章あるうちの第十二章まで。うしろについている訳注と解説に頼りながら読みました。


 なるほど、イタリアにも日本の戦国時代のように全国各地で有力者がしのぎをけずりあう群雄割拠の時代があったのですね。

 『君主論』が書かれたのは一五一三年から一五一四年にかけてということなので、まさにそのころの日本は戦国時代。遠く海の向こうイタリア半島でもフィレンツェ共和国、ミラノ公国、ヴェネツィア共和国、ナポリ王国、そしてローマ教皇領などがそれぞれ勢力を拡げようと競い合っていたんですねえ。

 そんな中、マキャベリさんはフィレンツェの書記官だった。外交にも携わり、フランスに行ってフランス国王の側近と戦争関係の交渉をしたりもした。かなり有能な感じ。生まれは名門ではなかったらしいけど、どんどん出世できそうじゃない?


 ところが。

 四十三才のマキャベリさん、政争に巻き込まれて投獄されてしまった。拷問も受けた。やっとのことで釈放されたのち、フィレンツェ郊外に暮らし、そこで書いたのがこの『君主論』。


 もっと“君主とは気高くあれ!”みたいな精神論かと思っていましたが、違いました。とても具体的な内容でした。


 まず君主にはどんなタイプがあるかを挙げる。世襲タイプ、新興勢力タイプ。

 そして君主論では主に新興勢力タイプについて掘り下げていく。

 さて新興勢力といっても、ほんとに一から成りあがったタイプ? それとももともと違う土地を支配していて、今回支配した土地は増築部分みたいな感じ?

 支配した土地のひとびとは君主制に慣れてる? それとも共和制のような自由な気風のある暮らしをしていた?

 軍隊は自前? それとも傭兵雇ってる?

 などなど、まるで雑誌に載っている性格診断チャートのようにどんどん分類していきます。

 そしてそれぞれのタイプに合った支配体制の維持の仕方を述べる。

 新興勢力なら前の勢力の残党を徹底的に叩いてひとり残らず消すべき、みたいな過激なことも書いてあってびっくり。これがルネッサンスの勢い? キリスト教的な建前はどこへやら。汝の敵を愛してなんかいたら抹殺されちゃうよー!


 他にもこんなことを言っていました。


 新しく支配した土地は君主自ら治めるべき。もし何かしらの問題が起きたとき、そこにいなかったらすぐに対処できない。遠くにいたら報告を受けるまでに事態が悪化しちゃって手遅れになりかねない。

 

 それから自前の軍隊を持つべきで、傭兵を雇ったり外国の軍隊を呼び込んで戦争するのはダメ。彼らは金の切れ目が縁の切れ目だし、そもそも外国の兵士が忠誠を誓うのは彼らの祖国に対してであってこちらの国にじゃない。だから本気の本気では戦わない。


 おや? この感じ……。  

 この、ひとつの集団をどうやって管理するか、どこまで自前の設備でもって仕事をするか、どの仕事を外注するか、社員のモチベーション維持等々、リスクとコスト、仕事の成果を重視する感じ……。前にもこんな感じの本を読んだような気がする。


 あ、この“百分だけ読む”企画の第三冊目で読んだ、ドラッカーの『マネジメント』だ!


 ドラッカーさんの『マネジメント』では、おもに企業の経営管理の仕方について述べられていました。

 『君主論』では企業ではなく、君主が支配する地域をいかに効率よく統治するかが論じられている。


 もしかして『百分de名著』がこの『君主論』を取り上げたのはマネジメントの面で現代でも通用するようなことを言ってるから?

 

 俄然、興味が湧いてきました。早く番組見たいよう。


 さてさて、マキャベリさんのいたフィレンツェはどんなタイプの国だったかというと、“共和国”でしたがメディチ家という有力な一族がいて支配権を握っており、そのメディチ家とほかの有力な一族が争ったりしていました。自国軍を持っておらず、近隣勢力と戦争するのにフランス軍にたすけを求めたりしてました。だけどそのフランス軍がうまいこと動いてくれなくて、だから若きマキャベリさん、フランスに遣わされて国王と事態打開のための交渉をした。大変な交渉だったんだろうなあ。


 政争に巻き込まれて投獄、釈放ののち隠居暮らしみたいな生活を送っていたマキャベリさん、この『君主論』を当時のフィレンツェの権力者ロレンツォ・デ・メディチに献上しました。冒頭にある献辞では、自身の不幸な境遇についてメディチさんに知ってほしいというようなことも書いてあったので、またとりたててもらって政治の世界に返り咲きたいという思いもあったのかもしれません。


 さて、このあとは『百分de名著』視聴タイムです。


【視聴後】

 わたしが読んだのは十二章までだったので、君主の支配権の種類や維持の仕方が主だったのですが、読んでいない後半部分では君主たるものの心構え、態度について書かれているらしく、そちらもとても興味深かったです。


 例えば、君主は領民に愛されるより恐れられた方がいいとか。

 気前がいいと思われるな、ケチと思われるくらいがいいとか。

 処罰は一気にやれ、褒賞は小出しにしろとか。

 

 えぇー、まるでモラハラ夫やDV彼氏のやり口じゃん!

 いやいや、これはあくまでルネッサンス! ……でいいのか? いやよくないだろ。


 などとわたしは混乱してしまいましたが。

 とにかく、君主としてひとびとの上に立つリーダーは、中途半端な優しさを見せたり、場当たり的な人気取りなんかしちゃいけないんだよ、ってことなんだと思います。ときには冷酷とも思えるほどの冷静さでもって事に当たれ。それが結局はひとびとを、祖国を、戦災から、人災から遠ざける。


 『君主論』の底にはマキャベリさんの祖国への愛情があるようです。


【続きどうする?】

a:読む。

b:読まずに次の作品に進む。


 今回はaを選択。やっぱり後半部分が気になります。


 それと、マキャベリさんについてちょっと調べたとき、『マンドラゴラ』という戯曲を書いていると知って驚いて。

 マンドラゴラって根っこが人間みたいな形していて、夜中に歩いたり、土から引っこ抜くとき悲鳴をあげるって伝説のある植物のことだよね? いったいどんな内容かしら? ホラー?

 とわくわくしてあらすじを探して読んだところ。

 超リアリスティックな『君主論』を書いたマキャベリのものとは思えないほどなお話でした。落語にありそうな。気になる方はネット等であらすじを検索してみてください。もう、マキャベリさんたら振り幅でかすぎ! いや、これもある意味“いかに支配するか”だから、マキャベリさんお手の物のお話?


 まあ、とにかく、ルネッサーンス! ……いや、よくないだろ。


【今回読んだ本】

マキアヴェッリ『君主論』河島英昭訳 ワイド版 岩波文庫 1998年

※本文中の「」内はすべてこちらの本からの引用です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る