走れ正直者

常畑 優次郎

一話 天使のあれはIカップ

 最後に見えたのは突き飛ばした衝撃でめくれた少女の神域、純白のパンツだった。


「んでっ! ここはどこよっ?!」


 白い何もない世界だ。どこまで見ても白、白白白っ。いくら死ぬ間際に見たのが白いパンツだからってこれはどうよ? せめて誰か懇切丁寧に教えてくれる人はいないのか?


 死んだ事は理解している。大型トラックに引かれたんだから、そりゃあ死ぬだろうよ。だけど、すでに一時間くらいはこの真っ白な空間にいる。


 なのに誰も来ない。


 死んで意識がある時点で天国か地獄か転生か、って事じゃないの? あー、せめて美女か美少女かエロい痴女のねえちゃんをよこしてください。


「……頭の中腐ってんじゃないの?」


「おっ! ……美少女キター―――――――っ!」


「うわっ。きもっ!」


 祈りが届いたのか目の前に突然現れたのは白い衣の美少女。純白の翼が背中に生えているところをみるに、天使で間違いないだろう。


 心の声が駄々洩れてしまっていた俺に、美少女天使は蔑んだ目で辛辣な言葉をぶつけてくる。


 はいご褒美ですね。


 その上、目の前の天使が身に着けている服、白い布地の面積が少ない。少しずらせばあれの先端が、凝視するとすでに輪も見えてるんじゃないかって程だ。


 誰だか知らんがデザインした奴は天才だな。


「きもいっ!」


「ふげぇっ!」


 頬に凄まじい痛みを感じ、きりもみしながら俺は後方へと飛ばされる。どうやら激しくビンタされたようだ。


 普通であれば悶絶するはずなのに、なぜか痛みは一瞬で引き身体を起こす事ができた。ここが死後の世界だからだろうか。


「おいっ! いきなり殴るなんて人権侵害にもほどがあるぞっ! 上司を呼べっ!」


「あんたがきもい事ばっか考えてるからでしょっ!!」


「ん? 考えを読まれてるのか?」


「変なとこ察しが良いのね……ってどこ見てんのっ!」


「おっぱいだっ!」


 当たり前のような美少女天使の問いに、俺も当然のように答えてやる。


 しかし、考えが読まれているからか腕で胸を隠しやがった。減るもんじゃないんだから是非見せつけてくれればいい物を……。


「あんた私が天使だってわかっててやってるわよね……地獄に落とすわよ」


 ははははっ! 一介の天使に左右できるものじゃないだろう。


 たぷん。


 威圧感を出すためか前のめりになる天使が、その豊満な身体を揺らす度にあれが左右に揺れる


 こんな良い物もっていて、そんな事もわからんとは脳に行くはずの栄養があれに行くという話は本当だったか。


「このっ!! ……はぁ。とんだハズレを引いたわ……ちゃっちゃと終わらせよう……えーと? 名前は尾崎啓馬?」


 はい啓馬です。けいちゃんって呼んでくれていいんですよ。


「思考は読めるけど、口に出してくれる?」


「めんどくさい奴だな。読めるんだから読んでくれりゃあいいだろ?」


「ぐふぅぅぅっ!」


 すぐに手が出る天使だと思い顔を防いだのだが、腹を殴られるとは思わなかった。くの字に折れて崩れ落ちる俺を天使はゴミを見る様な目で見降ろしてくる。


「……もう殴って良い?」


 なぐっただろうがっ! という言葉も出せなかったが、先ほどと同じようにすぐ痛みは無くなる。立ち上がった俺に見下した目線のまま天使は言葉を続けた。


「いやいや、お仕事お仕事……で、尾崎さんは状況を理解していますか?」


「はい。大きいですよね」


 しかし本当に大きなあれだな。どんな成長をすればこんなにも育つのだろうか? 天使は皆こうなのだろうか? Hとか平気で越えてそうだ。


「ん? ……貴方は死んだんですよ?」


「はい。胸元の生地をもうちょっとずらせば……」


 ほんの少し生地がずれれば。見えそうで見えないのがもどかしい。天使が何か言っているが俺の脳にその言葉が伝わることは無い。なぜならば、それ以上に重要な事を考えているからだ。


「……きも……ほんと最悪……はぁ……さっさと説明して昼ドラの続き見よ……」


「はい。少し揉んでいいですか?」


「いいわけ、ないだろうがぁぁぁぁあぁぁあっ!」


「ふべしっ!!!」


 三度目の衝撃が全身を貫く。痛みなのかなんなのかわからなくなるが、どうせすぐに治るんだから気にしても仕方ない。 


 それよりもぜひ一揉みさせてほしいっ!


「あんたなんなのよ。もうちょっと死んだって自覚持ってくれるっ? 死んだのっ、人生が終わったのっ。怖かったり不安じゃないのっ?」


「いや。別に……ただ童貞で死んだのだけが心残りかなぁ……」


 視線は胸に置いたまま、天使の言葉を咀嚼してみる。


 20歳で死んだ俺はまだ経験は無い。つまり童貞だ。


 正直なところが取り柄だと言われ続けたからか、エロに直球に生きて来た。


 小学生のころはスカートもめくったし、中学生のころは無修正なエロ本が聖書だった。教科書に重ねて授業中でも堪能していたものだ。


 高校に入ってからは学校中の女子全員にお願いした。


『是非揉ませてください』と……なぜか誰一人として揉ませてはくれなかったが……。


 ちなみに俺は変態だという自覚はある。だが、事エロに関してはポリシーがあるのだ。


 ノーパーミッションノータッチだ。


 許可が無く無理矢理というのだけは許されない。あくまで同意が必要。


 え? スカートめくりは良いのかって? まああれは若気の至りってやつだな。


「はぁ……まともに会話しようと思った私がばかだったわ……。いい? もうめんどくさいから簡単に説明するわね。あんたは死んだの。それでたまたま神様がくじ引きであんたを選んだからこれから別の世界に転生してもらいます」


「は、あ……ぁ? あ? うん? うん? 転生……キター――――――――――っ!!!!!」


「うるさっ。まあそれでこれから説明をするんだけど、特別な力を……」


「ケモミミ、悪魔っこ、幼女に童女に熟女。美少女に美女……おっぱいっ!! 俺の時代がキタ―――――っ!」ケモミミ、悪魔っこ、幼女に童女に熟女。美少女に美女……おっぱいっ!! 俺の時代がキタ―――――っ!


「頭の中とハモるんじゃないっ!! ……はぁ鬱になりそう」


 顔色を悪くさせた天使が両手で顔を覆っているが、それよりも俺の頭の中は来るべきハーレムを想像させて大パニックだった。


「はいはい……それで……特別な力を授かるの。その人に合った特性になるからよく聞いて……力の使い方は……」


「おーっぱいっ。おーっぱいっ。おーっぱいっ!」


「で……」


「わっしょい。わっしょい。わっしょいっ!」


「……して……」


「うおおおおおおおおっ!」


「ああああああぁぁっぁあああああああっ! もう知らないっ! さっさと行けっ!」


「ありがとーーー神様ーーーーっ!」


 空間に穴が開く。こうして天使に放り出された俺は新たな人生を送るために異世界へと旅立ったのだった。


 力の使い方を知らないまま……。


 


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