2話:ミーニャ

 猫耳の少女が駆けつけて数分。彼女は何を言うまでもなく、魔物の解体を始めた。


 なんでも、


「駆けつけるのが遅かった、せめてものお詫びですぅ~」


 ということらしい。にしても、ある一点だけを除けば、百四十あるかないかの小柄な体格なのに、魔物の解体はかなり手際がいい。


 換金できる個所とそうでない個所を切り分ける作業効率を鑑みるに、魔物の解体にはなれているようだ。


 だとすれば、彼女も冒険者だろう。身なりはお世辞にも良いとは言えないが、もしかして冒険者って儲からないのか? 


 だったら嫌だな。危険は付き物だろうし。それに見合った報酬がないと……。


 何か他に、お金を稼げる仕事を見つけた方がいいかもしれないな。


 と、一人、自分の世界に入っていると、猫耳の少女は解体を続けながら、


「あなた様、ですよね? わたしに『助けろ』って命令したの」


 そう、少しかしこまった口調で問うてきた。


 しかし、一体どういう意味だろう? 


 俺は別に彼女が言うように、『助けろ』とは命令していない。単純に【猫の手も借りたい】を発動させただけだ。


 たしかに、あのときは『誰か助けて』という願いもあったけど……。


 もしかしたら、【猫の手も借りたい】を発動したときの心境によって、影響を受けた生物にはそういった指令がいくのかもしれない。


「まさか、強制力があったりしたか?」


「なかった……とは思いますが、どこか切羽詰まった感じがして、助けないと! っていう気持ちが湧いてきて……。でも結局、間に合いませんでしたけども……」


 ふむ。言葉から推測するに強制力はなく、任意ではある……か。


 でもまさか、猫耳の少女が助けにきてくれるとは……。【猫の手も借りたい】の影響が及ぶのは、ネコ目・ネコ科の生物。


 だが、実際は獣人にも影響があるとなると、ネコ目でネコ科じゃなく、ネコ目またはネコ科であるなら、条件は満たしているということになるのか。


 つまり、トラとかライオン以外で、キツネとかにも【猫の手も借りたい】の影響下にあるということか。


 ……めちゃくちゃ強いな。


 マジカルキャットであそこまでの固有魔法が手に入るということは、それ以上の魔物なら、もっと強い固有魔法を扱えるようになるわけで……。


「あの……どうしたんですか? とても悪い顔をしてますが……」


「おっと、失礼」


 どうやら、顔に出てしまっていたようだ。


 でも、仕方ないだろ? 【猫の手も借りたい】でオトモを増やすだけで強くなるビジョンが見えてしまったわけだから。


「……そういや、まだお互い名乗ってなかったな。俺は飯島遥人だ。君は?」


「わたしは、ミーニャです。冒険者、やってます」


 やはり、冒険者か。だが、気になるな。


 ミーニャと名乗った少女は優しすぎる。


 顔も名前も知らない人間を助けようとするぐらいだ。


 だから、冒険者は似合わない。


 もしかすれば、冒険者にならざるを得ない状況なのかもしれないが……さて、聞いてもいいものか。


 しかし、聞かなければ分からない。

 ミーニャは俺を助けようとしてくれたわけだし、俺も彼女の力ぐらいにはなれるかもしれない。


 まぁ、冒険者になったということは、大体の予想はつくが……。


「なぁ、ミーニャ。とりあえず、かしこまった物言いはやめよう。使うべき相手を間違ってる」


「で、でも……」


「でもじゃない。というか、もう手遅れだ。もし、俺を敬う相手だと思ってるなら、作業しながら話すな。そして、駆けつけてきたとき、『ふぇ~、お助けに来ましたよぉ~』って、腑抜けた声を出してた。だから、今更かしこまったところで、遅い」


 それに、俺たちは冒険者同士だしな。冒険者が敬語なんて使ってたらおかしいだろう。


「分かりましたよぉ。というか、さっきのわたしの真似ですか? やめてくださいよぉ。恥ずかしいです~」


「うん、やっぱりそっちのムカつく喋り方のほうがしっくりくる」


「酷いですよぉ~。わたしだって、好きで話してるわけじゃないんですぅ」


「あー、やめて? ぶりっこみたいで顔面殴りたくなる」


「どっちなんですかぁ? わたし、どう喋ったらいいんですぅ?」


「好きにしろ。それで? なんでミーニャは冒険者になったんだ?」


 その瞬間、ミーニャは解体の手をとめて、少し俯いた。


 ふむ、やはり冒険者になったのには、それなりの理由がありそうだ。


 大体、冒険者って活躍によるだろうが、収入がいいイメージが何となくある。


 勿論、上位の冒険者はそれなりに稼いでいるだろうから、あながち間違いではないだろう。


 恐らく、ミーニャには危険な冒険者になってでも、お金を集めなければならない理由がある。


 彼女のことだ。きっと、優しい理由でお金を欲しているのだろう。


 俺はそう確信し、ミーニャが話し始めるのを待つ。そして、


「実は……」


 静かに話を切り出した。俺はその続きを促すように、「実は?」と同じ言葉を繰り返す。


 すると、ミーニャはとんでもないことを口にするのだった。


「早くお金貯めて独り立ちして、素敵な殿方と結婚して、子どもをこしらえたいんですぅ~! ハルト様のようなお若い人には分からないでしょうけど、わたしもう、三十路突入間近のおばさんなんですよぉ~! うわぁ~~~~~ん!」

 

 って、こいつロリババアかよっ! 優しくしようとしたことが、裏目に出た! ちくしょう、どうしてこうなった……!

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