第37話

 ここで残念なおしらせがあります。

 

 本稿はイコールコンディション、ゲームフィールドで両プレーヤーがやあやあ我こそは、と互いの知力体力土岐の運、を掛けて激突するものがたり、では実は無い、ということであります。

 

 そして神殺し、のものがたりでも、また無いのです。




 ごう、と、

 

 風が、鳴った。

 

 

 それはいっしょくたに総てを放り投げる。

 

 太郎と深香、公嗣と従う陸自隊員。

 

 埼玉県さいたま市。

 見沼区は、市を構成する10区のうちの一つであり、北東部に位置する。区名の由来である見沼は、区の西部・東部及び南部の低地に広がっていた。

 現在は東部から南部には見沼田圃と呼ばれる田園地帯が広がり、西から南に芝川、東に加田屋川と見沼代用水東縁が流れ、埼玉県の見沼田圃の保全、活用、創造、所謂里山構想の基本方針により、緑地が保護されている。見沼に囲まれた中央部は台地上に属する。北東部の深作沼周辺は広大な湿地帯であったが、沼の大半が埋め立てられ住宅地が建設されている。

 

 見沼には竜神が住んでいるとされ、周辺の村々にはさまざまな竜神伝説が残っている。例えば、その竜神が住んでいると考えられていた四本竹という場所では近隣の氷川女体神社が竜神を鎮めるために磐船祭という行事を江戸時代の終わり頃まで行っていた。

 

 奇妙なハナシである。

 

 なぜ、祀る、のではなく、鎮める、のか。

 

 他の伝承も龍神の名を騙る、或いは貶めんが為としか思い及ばない、到底龍神の名に、神格にそぐわないお粗末な説話ばかりが大同小異雁首を並べ民の冷笑を待ち望んでいる。これらが大和の手による霊的な不安定化工作、古来よりしぶとく継承される龍神信仰を毀損し、信者をオルグし、信仰心、想念の創出という神格の策源を破壊、完全制圧に至らしめる、正に武蔵野結界起式完遂の事跡そのものであると言えよう。

 

 この辺りからよいよ感覚は怪しくなる、自分は、

 

 いちタクシードライバーの日本人山田太郎で、武神須佐之男命でそして、

 

 大和がそれを遣わし武蔵の地、

 まつろわぬ日ノ本の最前線で封じた、古神、

 

 

 いにしえの龍神、おおいなる沼の主。

 

 

 

 御沼。

 

 

 マヘル太郎がこの世に結実した時点で武蔵結界は実質、破れ、

 

 気象庁が異常値を感知し大いに賑わうその土岐。

 

 大和に仕える現代の贄がかつて仕えた神を、龍神の棲家、封地を営々と埋め立て、一面人間の生活圏、首都高速終端路が塞ぎ田畑開けるその地の、

 

 さいたま市見沼区の時空が歪み、

 

 黄泉還る当時の、一面の湖面、かつての武蔵国、現在の埼玉県さいたま市(北区・大宮区・見沼区・浦和区・緑区)と川口市に存在した巨大な沼、その総て。

 

 幻像に呑まれ総てが水没する中これを割り裂き、

 

 

 お

 

 お

 

 

 お

 

 

 

 お

 

 

 

 

 お

 

 

 

 

 

 咆哮は天を裂き地に轟く。

 

 

 御沼の巨体が天に昇る。

 

 

 その姿、光景を太郎は見ては居ない。

 深香が仕掛けた一連のシークエンス、ファイナルアプローチ。

 太郎は、太郎こそ、御沼だった。

 

 

 山田太郎。

 

 神人に交わりし処の太郎、

 男神を降ろすべく世に現れた、器。

 

 そもそも。

 公安ゼロ別室、なる存在は、

 本局たるゼロが既に極秘対象である関係から、

 公式にも非公式にも存在しない、

 幻であり、

 そしてそれは、

 キクの本来業務そのもの、

 大和にまつろわず祟る、

 その候補、脅威を排除、

 または馴致、大和の体制に組みしだき、

 よって大和を、国体護持に勤める。

 

 しかして、

 

 日本政府、ウェストファリアの文脈から外れて立つ大和、

 そして大和に抗うもの、大和を大和ならしめるもの、

 

 これら総てが、現代日本にあってはならぬもの、

 近代合理主義と単一民族国家、万世一系を基盤とする立憲君主制、

 それら公、教科書に大書され新聞書籍電波で報じられる寸分の疑問無き事実、

 それらが絶対肯定されんが為に、

 それらを根底から破壊する、何に替えても隠しおおされるべき、

 あってはならないし事実存在しない、しない筈の、

 

 畏れられず侮られず、何より気付かれず、

 自らと、自らが護持するべきの、

 名誉でも矜持でも権威でもなく、

 その非在をこそ貫き通す。

 

 

 それが今、これ以上ない無残な形で、崩壊を迎えていた。


 御沼の現世への実体現出により、周辺空間は物理常態に復帰。

 先まで見沼区を嬲っていた豪風を一息に吹き払い、衆生にその偉影を、かつての、天空を圧し延べられた、眼にする者その総てを心魂より畏敬させ自然拝み奉る龍神、神霊、威霊。

 天を仰ぐその者らに、常なるスマバシャは一物もない。

 ただ、ただ。

 讃嘆。

 感動。

 感謝。

 敬い。

 奉り。

 信ず。

 


 御沼は見下ろす、氷川本殿の一角。

 

 

 来よ。

 

 

 無造作に声を落とす。


 応えてもう一神、一柱が形を為した。


 その姿は。

 

 

 外装にまとうは超有名、

 遮光器土偶のそれ、を乾竹割にしたかの艤装、コスプレ。

 左右両腕に下げる三連装砲塔に、

 両肩にはどりどりドリル。

 足元にはそこだけ妙にりっぱな、様々な履物、

 

 

 混ざってる!なんかいっぱいまざってる!!。

 

 

 ぶはは、なんだそれ。

 太郎御沼は思わず指指し爆笑。

 

 古地母神、アラハバキ。

 

 来よ、と御沼は再度、招く。

 

 深香アラハバキはちいさく頷くとその姿は御沼の背に横座りしていた。




 土岐は縄文、処はフォーカス26、別名虚ろな天国、ほっとけ、体脱会場にはじゅうぶんである。

 縄文の俺らは盛っている、そう、縄文の俺ら、だ。

 

 バキバキ!!。

 バキバキ!!!。

 

 せーの!。

 

 

 アラバッキー!!!!。

 

 

 既述のとおり会場は体脱、非物質界。

 列島各所に分譲する縄文の俺らがバッキー様を称えるオフ会を開催しているのだ。


 萌える!萌え尽きる!!。

 尊い!貴いよバッキー!!。


 本体の枕元には思い思いの萌えフィギュア、訂正、御神体、聖体。

 件の遮光器土偶、に酷似した物も多数見受けられる。

 

 その双眸は広く我らを隈なく見受け慈しみ、森羅万象悉くを見通す。

 我らが母、我らが娘、我らが愛しき、大地の守護者、命育む万物の源。

 称えよその叡智。

 捧げよ我らが感謝。

 豊穣に礼。

 とこしえに、とこしえに。

 

 

 信心してるかーい!。

 

 ウェーイ!!。

 

 愛してるかーい!!。

 

 ウェーイ!!!。

 

 奉ってるかーい!!!!。

 

 バキバキ!!!!!バキバキ!!!!!!。

 

 アーラーバッキー!!!!!!!!!!!!。

 

 

 宗教イナゴは新参のアマテラス他に流れていったが当然、アラハバキ信仰も根強くしぶとかった。

 

 しかし!縄文の血は親より濃かった!!。

 デカ眼教、巨眼信仰は遂に現代に蘇ったのである!!。

 

 所謂遮光器土偶こそはのいぢ絵の始祖だったのである。

 

 巨眼信仰、叡智を司る、例えば梟の神格化、等の事例もある、その類例事例ともいえる。

 

 或いはこう言って良いだろうか、遮光器土偶、宇宙人仮説、大変結構、と。

 

 

 問おう、

 

 アヌンナキは何処にいる。

 ニビルは何処にある。

 

 神の代わりに宇宙人を据えようというのであれば、人類被造物仮説、我々人類は宇宙人によるジーンデザインプロダクト、地球由来の自然物ではない、と、宇宙人仮説は併記して然るべき、必然なのだああ、宇宙服の遮光器土偶さんよ。それだけの覚悟はあるか、あるまい、あんたが期待してるのは精々、宇宙人、またまたごじょうだんを、という、我々救済対象をほんとに見ているのか見えぬ振りか仏像のアルカイックスマイルの冷笑で、アラハバキ、ね、ふーん、という、御沼への神格破壊とは規模が違う、アラハバキ信仰への徹底的な弾圧、破壊、ネタ化。

 

 

 しかして御沼はそれをこそ嗤う。

 

 笑ってやらねばなるまい。

 

 我ら悠久の者に人の身で抗うその豪胆、気宇。

 僅かに百余年の齢を継ぎ接ぎ代を送り謀を巡らす。

 なれど必然、風雪に其れは綻び、破れは何れ来る。

 土岐至ればこれこの通り、一事にして。

 

 謀略、それは何時も儚い。

 一つの謀略は一瞬に看破される宿命を、自ら負っている。

 それでも人々は策謀に挑む。

 

 判っちゃいるけど辞められない、と。


 

 深香バキを背に、太郎御沼はそのまま氷川本殿上空を、

 気持ちよさげにゆったり泳ぎ踊り巡る。


 現出した御沼、全長概算10km以上の規模を誇るその「キク」が組織として存在する対処行動優先度首位、仮想最大脅威にして無条件殲滅対象を遠くに、公嗣と、従う2機はただ茫然と滞空していた。

 最初に我へ返った長機前席から声が発した、

 

 状況、継続なりや。


 公嗣の迷いは長くは無かった、

 殉じる、2機を引き連れ散華する、

 それが、九鬼に課されていた、望まれていた姿で、使命だろう、でも、

 

 かぶりを振り、いえ、と、

 原隊に復帰を願います、

 状況終了、燃料は?。


 了解、と明らかな安堵を滲ませ、前席は応じる。



 御沼は不意に背の女神に首を巡らせ、

 

 違うよな、こうじゃないよな?

 

 問うと、深香ばきも小首を傾げ、

 そう、ね。

 どうせ、なら。


 御意、と御沼。

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