第35話

 またJ隊? 。

 後席に身を置く屈強寡黙な姿に太郎は口の中で呟く。

 バイパス手前での日進ご指名は、昼タクシーには嬉しい。西口プールのJ隊さんは上得意様だ。

 もちろんJ隊は名乗りなど上げない、でももうその物腰からそれと判る、迎車も珍しくないし。

 一本となりの櫛引には他、旧名上尾街道、通称バス通り等の呼び名があるが、神子セブンの交差点から大台公園、そして日進駅西を抜けていく、旧与野市街は本町通りから延長して伸びる地元幹線道にして生活道のこちらにはさしたる呼び名が無く不便だ、駐屯地ワキ? なんか名称が欲しい。


 そういえば。

 深香と三日してないなー、と太郎が淫想を描いた土岐、

 

 ぴりっ。

 

 何か、いや。

 

 間脳辺りをまさぐった感触は眼前の光景に吹き消されてしまった。


 件の名無し通りと三橋公園通りの交差点を陸自の車両が塞ぎ、一般車は廻れ右左している。

 それほど長くは無い太郎の職歴でも初物。

 当然というか、ここでいいですといって相手は降りてしまう。

 是非も無し、太郎も左、ゴム跡でも抜けるかとステを廻し転回した営業車のシートから日進方面まで通った視線に、それは見えた。

 災害救助ですっかり正義の味方になった軍用へり、ブラックホーク。

 それが何機も、交差点を阻塞するジャンビーの向こう、路上でローターをゆるやかに回転している、そういえば空も騒がしかった、今も一機、練馬方面から基地上空に向かって来ている。

 何か、何が起きている、疑念渦巻く、美橋の住宅街を抜けプールに向かおうとしていた太郎に今度こそそれは届いた。来て、今直ぐに。


 命令に従い行動するのが軍隊であり職務である。理不尽であろうが困難であろうが可能行動である限りに於いてこれを粛々遂行せしめる。

 今、大宮駐屯地から出動した各部隊は、作戦行動予定時間に従い全隊が作戦開始地点着陣終了した。穴埋めは練馬から配転中であるらしい。

 神子氷川で配置に就く、投擲戦闘能力から選抜され命令された彼は、目標に視線を据え掌中に支給装備を握りしめ、

 

 状況開始。

 

 発令と同時に関東218の氷川神社各地で一斉同時に「れいたん」が投擲された。

 

 霊符は脅威の存在を一斉に、術者に向け警告発信し、

 

 関東を一望に見渡す高所より総てはモニタされていた。


 それは奇妙な外観の機体だった。

 知識のある者が見れば、その原型がC-1、川崎重工の手により戦後初めて開発された国産、双発の中型戦略輸送機であることは推測出来るであろう。しかし機体は、まるで冗談のように長大扁平な機首を持ち、機体側面にもなにやら突起物がある。

 EC-1電子戦支援機、一名、カモノハシ、怪鳥は今、するどい霊子の瞳で眼下を隈無く見通し、作戦の進捗を統括していた。

 公嗣の眼前に状況は展開していた。


 特定した。

 

 管制席から静かな、自信に裏打ちされた声が告げる。

 そして裏返る、罵言と共に。

 

 明治神宮近隣、だと。

 

 公嗣も呻く。

 国内最大霊圧、バレッジジャミングの庇護に敵は潜伏していた。

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