第29話
八幡信仰7817社に引き比べるなら300に欠ける氷川などゴミのようなものだろう。
しかして、それは八幡との相対であり、定性定量としての概算200余、簸川を併せ260に達する存在を無視して良い、という法ではない。
寧ろ必要十分と判断すべきだ、結界として機能するには。
氷川信仰。
すなわち武神スサノオ。
これを坂東武者、開府の源頼朝をはじめとする武装集団、軍事政権の守護神として崇め奉り各地に拡がった、とする。暴力装置集団による素朴というも愚直な力への信望がそれ、とはなるほど余りにもあけすけで判り易い、が、そもその正に源は、先に示した通りに出雲より移駐した兄多毛比命、まんま名は体をあらわす武蔵国造である。
大和の命を受けて、だ。
ヤマタノオロチ。
八岐大蛇、八俣遠呂智。
古代出雲王朝。
高天原を追放された須佐之男命は、出雲国の肥河上流の鳥髪に降り立った、箸が流れてきた川を上ると美しい娘を間に老夫婦が泣いている、その夫婦は大山津見神の子の足名椎命と手名椎命であり、娘は櫛名田比売といった。
素戔嗚尊は天より降って出雲の國の簸の川上に到った、その時、川上で泣き声が聞こえ、其処で声の方を尋ねると、老夫婦がきれいな少女を間にして泣いている、老夫婦は脚摩乳と手摩乳といい、少女は二人の娘で奇稲田姫と其々名を告げた。
国譲り。
天照大神と高皇産霊尊は天津彦尊を葦原中国の君主にしようと欲して、地上を平定するために経津主神と武甕槌神を遣わす。大己貴神とその子の事代主神は身を引くのに同意して、2柱の神に矛を授けてから姿を消した、経津主神と武甕槌神は帰順しない鬼神を討伐して、天に復命した。
当時のアジビラを眺めていても仕方がない。
古代列島。
本州中部から急速に勢力を拡大したヤマト王朝は遂にフロンティアを失う。その先には既に別の勢力、古代出雲王朝が存在した。
ウガヤフキアエズ王朝。
現在の九州、大分を本拠とする帝國であった。出雲王朝はこれが本州に上陸した分国である。
そして、遂に両者は激突に至る。海洋国家ウガヤフキアエズと内陸国家ヤマト。言うなれば日本版ポエニ戦争と言えよう。出雲平定はこの前哨戦であった。出雲攻略を任命されたスサノオはしかし、勇戦敢闘するも攻めあぐねる。ヤマトにはない新兵器、鉄器は、我が青銅の剣では太刀打ち出来ない。それでも数の利を生かし、九州本国との後背を扼し孤立させ攻略の目途が立つが最後の拠点、敵が籠った要塞が落ちない。トブルク要塞攻囲戦、或いはレニングラード、コンスタンティノープル。内陸国家ヤマトの水軍はウガヤフキアエズ海軍の敵ではない、海洋兵站を叩ききれずヤマタノオロチの抗戦は続く。しかし終りの見えない籠城戦に住民の厭戦感情は限界を迎え、内応を得たスサノオは遂にヤマタノオロチを撃砕、出雲平定を完遂した。そして、ここにヤマトも草那藝之大刀、天叢雲剣、草薙剣、草那藝之大刀、念願の鉄器製造技術を入手するに至る。本州平定、西武戦線の決着を見た後これを手に、ヤマトタケルは武蔵の地、東部戦線に向かうのである。
そして結界は機能していた。
倭建命が東夷鎮定の後、
大和が簒奪した日ノ本なる国体として列島は一体の、
天下の、正に日ノ本にある一体として語られる存在となった。
乱れる、とは正大が存在する前提としての言葉だ。
ばかな。
九鬼公嗣はそれ、統合情報定時報告の最新号を開き、絶句した。
どうしました、室長。
公嗣は資正の声にも気付かず眼前の、三面モニターの一角を無言で睨み据えている。その息遣いが珍しく乱れ、荒かった。
慨嘆の一語以後無言必死に両手を奔らせていた公嗣はようやく、やはり無言で背後に、正に護身の藩屏、否、想い人を一身に掛けて護り通す守護神たらんと柔和な表情の儘に立ち護る資正に気づき振り返り、僅かに顔を赤らめああ居たのかと声を掛け、いや、と応える相手を再び無視し作業に没頭する。
幸い、常は組織の最上級者にしてあーひま、誰かまつろわないかしらと不穏そのものの呟きをそのままメーリングに載せ廻してしまう紙一重才女彼女がなればこそその凶事を未然防止する為に俄然猛然瞬間最大風速稼働を見せる機会が度々あり結局それなりの容積を持ち1個中隊に少し欠ける人員が稟議決裁国内動態観測につつき回され動かされているゼロ別室で、あーまた室長が仕事増やしてるよ以上の反応を示す配下は居ない、今は未だ。
資正の隣にいつも間にか、影の様に姿を見せたのは文書係長、九鬼祥充。
忙しくなりそうですか、と祥充は問う。
公嗣は言葉に顔を向けおやじ、と口の中だけで呟き、盛大に顔をしかめ、再び三面モニターに向き直り両手を動かし掛けしかし大きくため息を付くと回転椅子を廻し体ごと向き直り次いで直立し威儀を正し文書係長の顔、両目を凝視し顎を引き口を開いた。
ご相談が、あります。
何なりと、承りましょう、と祥充は無表情に応答する。
そして資正の姿は既に無く、迅速に、自らが得た情報を基に自身の最善に向け風雷が如く手近なスタッフを呼び止め走り書きしたメモを手渡すとそのまま足早に室外へ消える、上野に向け。
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