第3話 〜お兄ちゃんは困ったようです〜
――――――箱の中身は、手紙とゲームソフトだった――――――
――――――箱の中身は、手紙とゲームソフトだった……!!――――――
大事な事なので、二度言った。『箱の中身は、手紙とゲームソフトだった!!』と!!
しかも俺には、パッと見でも分かる。今は懐かしの、スーパーでファミリーなコンピューターで遊ぶ。今はほぼ流通していない、一昔前の貴重なゲームソフト!
何故俺は、ここまで必死なのか。そう! 二人の視線が痛いからだ!!
無言でもわかる! あの『ちょっ、お前……』と、痛いものを見る視線が痛い! 超痛い!
「ヒロくん……」
「ヤヒロさん……」
「止めろ! 俺をそんな目で見るな……!!」
穴があったら入りたい! それくらいのレベルで二人の視線が痛いし、何より恥ずかしい!
「結局、全ては二次オタゲーマーを拗らせたヒロくんの妄想で、自分で頼んでたゲームソフトを忘れてただけでしょ?」
「ヤヒロさん……。やはり今日はもう、早めに休んだ方が良いのではないでしょうか? 明日も大変でしょうし、どうかお身体は大切に」
「だから違うんだってば!! くそっ!!」
俺がどうしたものかと悩んでることなどお構い無しに、妹はゴソゴソとゲームソフトを箱から取りだしマジマジと見る。
「でもコレ何のゲームだろ? タイトルも書いてないし。ヒロくんこんな懐かしいソフト、よく見つけたねー。で? 一体何を頼んだのさ?」
「だから身に覚えもないし、そもそも押し付けられたやつだから分かんねぇーよ……」
頭を掻きながら、最近某通販で頼んだものといえば。先程やっていたゲームくらいだ。
そんな中、妹はいつの間にか俺の部屋から、少しホコリの被った箱を持ってくる。そして中身の本体を取り出すと、ソフトと照らし合わせて機種が合っているかを確認しする。そして先程までやっていたゲームをセーブして終了すると、手馴れたようにテレビに配線を繋げていく。
「とりあえず、挿して確認してみる?」
「クーリングオフ制度は、適応できるのでしょうか? 説明書かもしれませんし、まずは手紙の方を……」
「あ、挿しちゃった」
「お前ら他人事だと思って……。もう好きにしろ」
俺は額に手を当てながら、深いため息をつく。妹はゲームを起動すると、画面に魔法陣のような模様が現れる。少しして、妹が困惑したように「あれ?」とこぼす。
「どうした? ヒナ?」
コントローラーを握った妹は、眉間にシワを寄せながら何度も首を傾げている。
「うーん、何かどのボタン押しても全然反応しないんだよー」
「そんな訳あるか、貸してみろ」
俺は妹からコントローラーを受け取り、操作を試みる。が、全くもって画面が進まない。
「まさか
「そんな事しないよ! ちゃんと挿したよ!」
俺はあらゆるボタンを押す。が、やはり全くもって反応しない。
「何だコレ? マジで不良品か?」
「壊れてるのかなー? とりあえず一回電源落として、抜いてみる?」
そう言って妹が手を伸ばした、次の瞬間――――――!
画面の魔法陣が、一際眩しく光った……!!
あまりの眩しさに、その場にいる全員が目を瞑る。
(な、何だ!? 一体何が……!?)
――――――……お……がい……を………………って………………――――――
頭の中に少女の声が響く。
全身の感覚が狂う。あったはずの床の感触がない。そもそも俺は今立っているのだろうか? 落ちているのだろうか? 謎の浮遊感に頭が回る。
――――――…………お願い………………を……救って…………――――――
一瞬、儚げに涙を流す少女の横顔が脳裏をよぎった。
どこかで見た気がする。その泣き顔を。
「おい! 俺は……っ、一体何を救えばいいんだよ!!」
▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁
俺が叫んだと同時に、光が徐々に弱くなる。
(一体何だったんだ? 今のは……?)
声を聞いた。どこか懐かしさを帯びた声。だが何を言っていたのか、細かい内容まで聞き取れなかった。
「……ねえ、ヒロくん」
立ち尽くしていた俺の隣に、いつの間にか来ていた妹に袖を引っ張られる。
そうして俺が正気を取り戻した時には……。俺たち三人は見知らぬ森に居た。
▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁
澄み渡るような青空の中。俺の身長の何倍もの背丈の木々が、青々と生い茂っている。膝丈ほどの草が風で揺れる。陰湿な雰囲気はなく、開けた場所にいるためか、視界は良好。
気づいた時には、森の中にいた。
(え? 何で? さっきまで
今俺の頭の中は例えようのないほどの勢いで、様々な思考と憶測が交わり回転している。
隣をチラッと見ると、そこにはいつも冷静な伊織が傍から見てもわかるほどに動揺している。そして妹は、不安そうに俺の袖を掴んで離さない。
(しっかりしろ俺。この中で最年長の俺が動揺しては、二人にさらなる不安をあたえるだけだ!!)
俺はとりあえず、ごく一般的であろう自分の頬をつねるという行動をとる。うん、普通に神経はあるし痛い。
(と、いう事は。夢ではなさそうだな……)
次に、自分の体をペタペタと触ってみる。特に変わったところは無い。よかった。
ついでに不安がってる、妹の頭も撫でる。あんなに小さかったのに、いつの間にかデカくなったな。
……などと、静かに妹の成長をしみじみと感じていたいのは山々だが、話を戻そう。
(俺はいつもの様に妹の
魔法陣が画面に現れ、取り出そうとした瞬間に発光した、と。
(こういうのなんかの本で見たな。たしか……)
「これはもしや、『異世界転生』!?」
「そうそう、それそれ……って、は?」
いつの間にか元気を取り戻した妹が、目を輝かせながら鼻息を荒くして叫んだ。
「漫画とか、アニメとか! ライトなノベルとかによくある展開! 『異世界転生』! 本当に起きるんだね! 凄ーい!!」
「うぉぉぉ!」と謎の方向に、ガッツポーズをして喜び叫ぶ妹に驚いたのか。森のどこからか『バサバサ!』と、鳥が飛び立つ羽の音がする。
俺はため息をついて、妹の肩にそっと手を置く。
「……待て待て待て。落ち着け、我が妹よ。俺たちは多分だが、まだ死んではいない。故に『
それを聞いた瞬間、妹はなんとも言えぬ顔をする。良くも悪くもすぐ顔に出るタイプなため、もう誰が見ても表情で分かる。妹は今、とてつもなくショックを受けているということを。
「そんな……。ここは
妹は膝から崩れ落ちる。一気に陰キャ特有のジメジメとした空気が、妹の周りを包む。
見てるこっちが本気で悲しくなるほど落ち込んでしまったので、俺は少しだけ先の言葉の訂正を入れる。
「……ま、まぁ死んでないから『
あまりピンと来ていないのか、眉根をここまでかと寄せる妹に俺はどう説明しようか悩む。
(謎の少女Aといい、先程の声といい……)
「つまりだ。
それを聞いた妹の表情が、一気に明るくなる。
「おぉ! つまり我々は今、ファンタジーな世界に召喚されたということでありますな!?」
「いや、ファンタジーな世界かどうかは知らんが。確実にさっきまでいた場所とは違うのは確かだな」
妹は一気に目を輝かせ「わーい!」と、俺の周りを走り始めた。
一方、先程から空気になりかけている幼なじみの方を見る。
何が起きたのか未だに理解が追いついていないのか、開いた目と口が閉じるのを忘れたように、呆然と立ち尽くしていた。
妹に動揺を悟られぬように説明し終えた俺も、ふっと目を閉じては耳を澄ませる。まさかとは思ったが……。どうやら某ボードゲームの映画のような太鼓の音は、鳴り響いては来ないみたいだ。腕にも勿論、ライフを示す三本線などもない。それに関しては一安心する。
そのまま腕を伸ばして、俺は空を見上げる。
「いい天気だ……」
そして、話は冒頭に戻る。
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