第6話

 市岡ヒサシ氏が作成した『偽幽霊動画を作って発信したことでジャンベの持ち主である故人を侮辱したことを謝罪する動画』は小宮、田中両氏が作った動画より軽く100倍は露悪的で残酷な代物だった、らしい。動画を作成したふたりの顔を容赦なく晒し、映像が盛り上がる効果も山ほど入れ(私には良く分からないが、ヒサシ氏は編集技術に長けているのだろう)、応接室での会合の12時間後には全世界に向けて配信された。


 人間というのは酷い生き物で、他者が惨い目に遭う様をエンターテインメントとして前向きに消費する傾向にある。動画サイトというのはいい感じに虚構と現実の存在が曖昧なので、そういった公開処刑の場としては最適なのだろう。ヒサシ氏が作った動画の再生回数はあっという間に小宮、田中両氏が作ったものを上回った。私たち3人を代表して動画を鑑賞した真野が「いやこれ絶対見ない方がいいよ、トラウマになる」と警告してくれたので、私と三藤は映像を見ていない。この先も見ることはないと思う。


 ジャンベは、悠木睦氏の手元を離れ、私の家にやってきた。まだ勝手に鳴り出してはいない。


 何もかもを他人に任せてしまったな、と思った。

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