第35話 学者エッジ
エッジはウロウロと歩いては何かを走り書きし、またウロウロとしては、本を開く。
「ああ、わからない!絶対にあるはずなのに!どうすればいい!?」
叫んで、頭を抱えた。そしてまた、何かを思い付いたようにペンを走らせる。
この繰り返しである。
青い石の塊が田舎の村に突然現れたのは、半年ほど前の事だった。持ち運ぶのにも苦労するほど大きなもので、誰かがそこへ置いたとも考えられず、その理由もわからない。
いきなり、夜半にはなかったのに、早朝には現れていたのだ。
青く、どこか光り輝くようにも見え、神々しさすら感じられたので、村の教会に皆で運び入れておいた。
するとその内、村でおかしな事が起こり始めた。教会で飼っているニワトリのヒナが1羽を残して死に、その1羽は尻尾を生やし、首が長くなり、見た事のない化け物のような姿になって、村の猟師をさんざん手こずらせた挙句ようやく死んだ。
それから教会で引き取られていた親無しの子が3人いたが、3人共もがき苦しんだ挙句、1人は死に、1人は体中に針のような体毛を生やした姿になって村の家畜を襲って猟師に殺され、もう1人は体中に鱗が生えて胸元にエラができ、村の池に飛び込んだ。
そこで教会は慌てて皇都に連絡し、原因かもしれないこの青い石を、皇都の教会本部へ移送した。
次に、変化があったのは、見習い修道士、見習い修道女だった。彼らの一部が、苦しんで死んだのだ。その中には、とてもヒトには見えない奇怪な姿となって死んだ者がいた。
そこで、石の事は皇帝の耳にも入り、皇帝は、おかしなものを研究する変人学者とされるエッジを呼んだ。
そこから、この計画はスタートしたのだ。
一室に石を安置し、ヒトを含む動物を一緒に入れてみた。皇都に集まっている浮浪者を集め、性別も年齢も様々にして。
そこから、ある一定の年齢の者だけに作用するというのがわかったが、生き残った者は、解剖して化け物の姿になって死んだ者と比較したり、石を少量移植してみたりしたが、結局は全員、口封じの意味もあって殺した。
次は、変化する年齢の子供だけに絞って集める事にした。
一部は変化しなかったが、やはり、多数が死に、少数が化け物の姿になり、そして一部が、化け物の姿になったり人のままだったりしたが、特殊な能力を持った。
エッジは、この「特殊な能力をもつ者」をもっと確実に大量に量産させろと言われた。
だが、火事が起こり、被検体が3人逃げてしまったのだ。
「何がああも、姿形を変え、普通のヒトにはない能力を与える?
あの石は、どこから来たのだ?」
石を調べようにも、火事の日に灰になってしまって、もう存在しない。
「やはり、この世界とは別の世界がこの世にはあるに違いない。あの石はそこから来たんだ。あの姿や能力は、きっとその世界のものに違いない!
でも、それをどうすれば証明できるんだ!?
どうすればそこへ行けるんだ!」
部屋の中で1人、叫ぶ。
研究の為なら何でもする。自分が知りたい事を知る為なら、他人を犠牲にする事もいとわない。エッジはそういう人間だった。
これまでの全てを書き記したデータを並べ、じっくりと読み返しても、足りない。石が、サンプルが!
「あの被献体共、どこに行った。解剖して調べてみたい。同じように能力を有しておきながら、姿が変わる者と変わらない者。なぜ姿も能力も千差万別なのか。その能力を持つ者の一部を移植したら、能力はその者にも受け継がれるのか!」
叫び、唸り、頭を掻きむしって暴れる。
そんな彼に声がかけられた。
「知りたいですか?」
エッジは、首をそちらに向けた。
逃げた3人の被検体がいた。スレイ、セイ、レミだが、彼にとってはナンバーでしかない。
「おお!戻って来たのか!」
それにセイが言う。
「知りたいだろ?」
「勿論だ!」
「知らないままじゃ、死にきれないほどでしょ?」
「その通りだ!」
「でも、知らないまま死ぬんですよ、あなたは」
スレイ、セイ、レミは、ドアの前にいたが、踵を返した。
「待て!」
エッジは慌てて追いかけて手を伸ばし、なぜか、ドアの前のマットを踏んだらそのまま落下してしまった。
「ああ?」
床を突き抜けて下の階へ行く――と思ったら、衝撃と痛みが全身を襲った。
見上げると、天井に穴が開いていて、そこからスレイ達が覗き込んでいた。
「この研究データはいらないね」
「ま、待て、それは、私の」
「あんたは何も残せず、何も見つけられず、死ぬんだぜ」
「バカな、ことを。私は、天、才」
ゴボリと口から何かが溢れ出た。目をやると血のようだ。そして体は下から突き出た剣によって串刺しになっており、手足は折れておかしな方向へねじ曲がっていた。
「その剣は、あなた達が実験で作り、解剖して殺した子の体に生えていた物ですよ」
「な、に……」
声も頭も朦朧とする。
「あなたはもう、永遠に、真理にたどり着けない」
「あんたはもう、何もできねえ」
「あなたは何も残せない」
それはエッジにとって、何よりの恐怖だった。
「嫌だ、待って、くれ……わたし、は……偉大、な……」
エッジに無が訪れた―――。
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