第34話 法王パドリック
裏口から中に入り、洗濯して干してあった修道女の服を着て、髪まで隠す。少し笑いそうになったが、なるべく下を向いて、人の少ない所をすばやく動く事にした。
偉い人は高い所にいると当てずっぽうに歩いて部屋を探すと、本当にそれらしい部屋があった。
「あそこだけ、入り口に警備の人がいるよ」
コソッとレミが言う。
「部屋はそこで間違いなさそうだな」
「でも、どうする?」
考え込んでいたが、いつまでもこうしていると、誰かが来るかもしれない。
「この部屋って何だろう」
スレイは隣の部屋を覗いてみた。隣といっても、ドアは廊下の角を曲がったところにあるので、警備兵からは見えない。
「応接室か?」
高そうなソファや飾り棚があり、よくわからないが色々と置いてある。
高そうだというのだけはわかった。
奥に扉があり、そこは位置的に見て法王の部屋に通じているはずだと、レミが耳をくっつけてみた。
「いるよ、誰か。
あ、ノックの音……法王が、呼ばれて下に行くって。あ、出て行ったよ」
「よし」
スレイがカギを壊し、3人は法王の部屋へ侵入した。
豪華だった。何も知らなければ、王か高位貴族の部屋だと思うだろう。
「でも、成金で趣味悪いな」
セイが言うのに、スレイもレミもクスクス笑い、手分けしてその辺を探し始めた。
「実験の証拠とかないかな。報告書とか手紙とか」
「宝石や金貨はバカほどあるぜ」
「これ、お布施とかだよね」
「腹が立つぜ。神様に皆してるんだろ。お前にしてんじゃねえっての」
ブツブツ言いながら、探すうちに、鍵のかかる抽斗を発見し、それを壊すと、出て来た。
「あった――!」
「人を集めるのが担当だったらしいな。村を回って集めて回る馬車の手配とかしてる」
「こいつ、貴族から金をもらって、邪魔な奴を宗教裁判で有罪にしてやがるぜ」
「酷いわね。どうしても、許せない」
3人は頷き合った。
法王は下で用を片付けた後、自室に戻って来た。
「はあ!貧乏子爵が。寄付をけちりやがって」
言いながら、戸棚に近付いて、グラスとアルコールを出す。スレイ達にはわからなかったが、グラス1杯で、平均的な庶民の4人家族が1か月は暮らせるくらいの値段がするものだ。
それをグビリとあおったところで、法王はその声を聞いて突然ふらりと倒れた。
「な、何だ――?」
レミの声だ。
振り返ると、修道女の恰好の、しかしどう見ても修道女ではない3人がいた。
「何だ、貴様ら」
「おいおい。探してる相手の顔も知らねえのかよ」
「なっ!?」
驚く法王にズカズカと近付いて来たスレイ達は、法王の口にハンカチを丸めて突っ込み、法王をヒョイとセイが担ぎ上げると、スレイの先導で、バスルームへ行く。
そこには、黄金でできたバスタブがあった。
そこにセイは、よいしょと法王を下ろした。
「あなたは、お金のために随分と汚い事をしてきたんですね」
スレイが紙の束を振って見せた。
「んん!んん!」
喋ろうにもハンカチが邪魔で、それを取ろうにも、体がマヒしている。
「人の命も、何とも思ってないよね」
レミが言って、別の束を振る。
「それに、宝石やお金は大好きだよな。女の人も」
言いながら、セイは金貨や宝石を持って来た。
「ま、女の人は無理だから。これだけで」
笑って、それらをザラザラとバスタブに放り込む。
「んおお!おおお!」
重さに法王が声を上げるが、スレイもレミも手伝って、どんどん入れていく。
「大好きだもんね。嬉しいでしょ」
バスタブの底に寝転んだ法王は、金貨と宝石の山で、全く見えなくなっていく。
重量もかなりのもので、法王はマヒから醒めても、動く事はできないだろう。
「皆、もっと苦しかったんだ」
「あの世で皆に謝れ」
3人で、大きな十字架を一番上に乗せた。
レミは耳を澄ませ、スレイとセイに頷いた。それで3人は頷き合い、部屋を出た。
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