第33話 人形

 どういうことか、咄嗟にはわからなかった。セイはナイフをレミに向け、スレイは自分の腕にナイフをあてがってセイとレミの方を向いていた。

「え?」

 あれほどの霧はどこにも無い。

 そして、椅子に座った人形は、ガクリと首を垂れ、耳から血を流している。

「何なの?」

 レミは人形に近付き、ハッとしたように手を引っ込めた。

「人形じゃないよ。今、鼓動の音が……!」

 セイとスレイも、辺りを見回しながら言う。

「幻覚を見てたみたいだ」

「俺もだぜ。まさか、こいつ」

 それで、3人共人形を見た。

「ボク達の仲間?」

 応えはない。

「まさか、人形になったのか?」

 セイが驚いたように言う。

「そうとしか、考えられないだろ」

 スレイも、半分信じられないような思いだった。

「霧を出して、幻覚を見せて、同士討ちさせようとしたのかな」

 人形は動かないし、喋らない。だが、両目から涙がこぼれた。

「終わりにしたいのか」

 スレイが言うと、微かに霧が漂って、その中で人形が頷いた。

「わかった」

 スレイは人形の胸に手を置くと、心臓を止めた。その上で石を手にし、それを砂にした。

「これは罠だった。急いでここから逃げるぞ」

「ああ。見張られてるだろうしな」

「じゃあ、どこから逃げるの?」

 セイとスレイは顔を見合わせ、言った。

「やっぱり」

「地下かな?」

 それで3人は、急いでダンスホールを後にした。


 エランは時間を置いてダンスホールに突入し、溜め息を殺した。

 椅子の上の人形はぐったりとし、石は無くなっている。そして、殺し合ったはずの3人の子供達は姿が見えない。

「逃げられたか。探せ!どこかに隠れている筈だ!」

 部下達が、屋敷中を探し回る。

 すべての部屋、クローゼットの中、天井裏まで探したが、見付からない。

「撤収する」

 エランはムッツリとして、そう言った。


 またもや排水溝から逃げ出した3人は、岸に這いあがり、まずは服の水を絞った。

「サン。これで全部か?」

【おそらくな。形、質量、こんなもんだろう】

「それにさ、スレイ。せっかくここまで来たんだぜ。先にあいつらに仕返ししてもいいんじゃねえか?」

「そうだよね」

「ああ。こんなに近くまで来たんだしな」

 3人は、そこにそびえたつ建物を見上げた。教会の総本部がそこにあった。

「行くか」

「そうだね」

「法王の部屋ってどこだろうな」

「きっと、一番ピカピカの部屋だぜ、きっと」

 3人は言い合いながら、どこから入ろうかと塀を眺めまわした。


 






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