第32話 霧の中

 サンが、言った。

【おそらく、あと欠片は1つくらいだろう】

と。

 それで調べてみると、皇都の郊外にある元貴族の別荘で、頭が2つである子犬を見たという話があった。その子犬は放置された元別荘に住み着いている野良犬だという。

 それでスレイ達は、そこへ行った。

 広い敷地に、大きな建物と池があった。

「犬、いないなあ」

「広いからなあ」

「屋敷の中かも」

 庭を探し回ったがおらず、まだ探していないのは建物内だけだ。

「行くか」

 3人は建物内に侵入した。

 やや埃っぽいものの、思ったほどは荒れていない。壁紙もきれいなものだし、蜘蛛の巣もない。絨毯だって、へたった様子がない。

 何かおかしい。

 そう考えながらも、探検気分で屋敷内を探して歩いた。

 と、ダンスホールに行きついた。

【あったぞ!】

 サンが言うまでもなく、それが目に入って来た。

 ダンスホールの真ん中にイスが置いてあり、そこに、等身大の子供の人形が座らせてあった。そしてその手の中に、青い石が乗せてある。

「何で?」

 近付きながら、スレイは眉を寄せた。

「落ちてたのを拾って、知らずに人形に持たせたんじゃねえの?何も考えず」

 セイは言って、人形をじっくりと眺めた。

「それより、見ろよ。これ、でっかいなあ。俺達と同じくらいあるぜ」

「お金持ちはこんな人形も持ってるのかなあ。凄いね」

「でも、置いて行ったんだな」

「勿体ないなあ」

 レミも人形をしげしげと眺める。

「ボク、人形なんて持ってなかったもん」

「じゃあ、今度買うか?な、いいよな、スレイ」

 セイとレミはそんな話をしているが、スレイはやはり、おかしいとしか思えなかった。

「やっぱり変じゃないか?

 そもそも、ここにあったんなら、何で前に気付かなかったんだ?」

 それにセイとレミがやっと表情を引き締めた時、霧が室内に立ち込めた。

「え!?何で!?」

「部屋の中だぜ!?」

「もう見えないよ!セイ!スレイ!どこ!?」

 ほんの数瞬で、自分の伸ばした手の先さえ見えないくらい、辺りは真っ白になったのだった。


 スレイは、罠にはまったと唇をかんだ。

(どうしよう。何か声も聞こえなくなったし)

 そう思ったが、2歩も歩くと、首を傾けた。

(あれ?ここで何をしてたんだっけ)

 と、ぼんやりと誰かが見えた。

「あれは……お父さんと、お母さんと、姉さん!おおーい!」

 手を振ると、3人はすぐにスレイのそばに来た。

「はぐれてしまって、心配したぞ」

「気を付けてね」

「はい」

「さあ、行きましょう」

「えっと、どこに行くの?」

 スレイは、手をつないだ姉を見た。

「村長さんから逃げるのよ」

「ああ、そうだったね」

 納得して、一緒に歩く。

「あれ?なんで?」

 訊くと、母親が振り返って言う。

「税が払えないからよ」

「ああ、そうか。そうだったね」

 言って、そこで首を傾ける。

(何で税を払えなかったんだろう?ああ、お父さんが、熊に……あれ?)

「お父さん。足、治ったの?」

 父親が振り返って笑う。

「ああ、もう大丈夫だ」

「お母さん、鉈で切った痕は?それに姉さん。そばかすができたって騒いでたのに」

 なんかおかしいと、不安がヒタヒタと押し寄せて、スレイはつないでいた手を離した。

 両親と姉は冷たい表情でスレイを見ると、言った。

「あら。ばれたみたいだわ」

「仕方ないな」

「ええ。殺すしかないわ」

 スレイはナイフを出して、右手に握りしめた。


 セイは、霧の中を両手を突き出して歩いていた。

 と、ぼんやりと誰かが見えた。

「スレイか?レミか?」

 声をかけると、それがはっきりした。

「ノリス!?」

 それは死んだはずのノリスだった。いや、その向こうに、隣にと、次々と仲間達の姿が増えていく。

「あ……あ……」

 足がすくみ、1歩後ろに下がる。

「何で自分達だけ逃げたの」

「ごめん!でも、皆で逃げられる状態じゃなかったから」

「ずるいじゃないか」

「そうよ。私達は解剖されたのに。生きたまま」

「痛かったのよ」

「苦しかったんだぜ」

「お前もすぐに、こっちだな」

「うわあ!来るな!俺は、俺達は、必ずお前らの敵をとるから!」

「寂しいのよ」

「恨めしいよ」

「やめてくれ!」

 セイはナイフを抜き出した。


 レミは怖さと不安で立ちすくんでいた。

「どこ?皆、どこなのぉ」

 声が震える。

 と、どこからか声がした。

「捨てられたいらない子だもんな」

「また捨てられたんじゃないの」

 レミはビクッと体をすくませた。

「化け物だしな」

 と、どこからか石が飛んでくる。

「痛い!やめて!」

「いらないって本当の事だから、向かって来られないんだろ」

「捨てられた子」

「化け物」

「スレイとセイも、いらないってさ」

 レミはそれでカッとした。

「そんな事無い!もうやめて!」

 耳を塞ぎ、叫んだ。


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