第31話 捕縛

 スレイはセイとレミに、こっそりと合図を送った。こういう時に備えて決めていたものだ。「逃げる・向こう・5・4・3・2・1・0」。

 セイとレミはその通りに走った。別々の方向に向かいながらも、集合地点を目指すのだ。

「あ、待て!貴様ら!」

 エランは慌てたが、訓練された軍人でもあり、さっと、一番捕まえるのに向いているのがレミだと見抜き、レミの捕獲に向かおうとする。

 その前に割り込み、スレイが自分の腕を斬りつけて、血をばらまいて発火させる。

 それに、エランもジーナもやはり驚いて、棒立ちになった。

「スレイ!」

「行け!」

 迷う様子を見せたレミに言い、スレイはエランに抱きつく。エランはまた火がつくのではないかと焦り、振りほどこうとするが、スレイは渾身の力で抱きつく。

「おい!」

 ジーナが、スレイに剣を向けるエランから剣を弾き飛ばすが、エランはスレイの首の後ろに手刀を叩き落して、スレイは意識を失った。

 が、その間にセイとレミは姿を消していた。

「逃がしたか」

「おい!」

「部下を別方向へ分散させたのが失敗だったか」

 エランはセイとレミを追うのは諦め、スレイを荷物のように担ぐと、歩き出す。

「おい!待てよ!」

「なぜだ。陛下の命令に背くのか、貴様」

「そ、ういうわくじゃねえが……いいのか、それで」

 エランは何も言わず、護送用馬車の荷台にスレイを放り込み、鍵をかけた。

 少しして部下達が集まり、取り敢えず1人だけでも護送することにしたエランは、馬車を発車させた。

 ジーナは逃亡をほう助した疑いで、事情説明のために来いと言って乗せられている。

「この国はどうなっちまってんだ」

 ジーナは頭を抱えた。


 街道を走り出す馬車の中で、エランは考えていた。

(何だ、あれは。血を燃やすのか?油断できんな。だが、刃物は取り上げているし、猿轡もかましてある。

 しかし、本当なのか。さっきの話は。人体実験など。何のためにだ。

 まさか、陛下は戦争する気か?たしかにあんな能力の兵士がたくさんいれば役に立つかもしれん。ケガをしても、自分の命と引き換えに何人かは殺せる)

 エランはじっくりと考えだした。


 荷台でスレイは気が付いた。

 手は後ろで縛られ、猿轡もはめられている。

 ジーナはどうなったかと思ったが、荷台には自分しかいない。

 そこでスレイは体を起こし、まず両手首のロープを切った。それから猿轡を外し、檻に手をかける。

「早いなぁ」

 少しスピードに躊躇したものの、カーブに入ったのを機に、檻の鍵を壊して、飛び降りた。

 ゴロゴロと転がって草むらに飛び込み、一目散に逃げ出す。

 そのまま走って集合場所へ行くと、泣きそうな顔のレミとイライラした様子のセイが待っていた。

「悪い。遅くなって」

「スレイ!」

「良かった」

「気付いたら戻って来る。逃げるぞ」

 3人は慌てて、その場から逃げ出した。

「あのもじゃもじゃのおっさん、大丈夫かな」

 セイが心配そうに言ったが、何とも言えない。解剖はされないだろうが、秘密を知ったのだから。

「大丈夫な事を祈るしかないね」

 味方は欲しいが、迷惑はかけられない。相手にしているのはそれほど強力な奴らだと、3人は改めて思った。



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