第30話 保護
翼と手足が生えた蛇が出たという村で村はずれの祠の近くにあった青い石を探し出し、スレイ達は壊した。
「羽が生えて、気持ち悪い!」
レミがブルブルと震えた。
「しかも手足が6本だぜ」
セイが飛びついて来た時の事を思い出して頭を振った。
「苦手だよ、僕も。もういないだろうな?」
スレイが言って、辺りを見る。
「サン。あと石はどのくらいありそうなの?」
レミが訊くと、サンはううむと考えた。
【1つか2つというくらいだろう。たぶん】
サンは地球の知識に夢中で、呼んでも応えない事も多いし、石の残りも「たぶん」と心許ない。
そんな3人の心情に気付いたのか、サンは弁解し始めた。
【仕方ないだろう?いくつに分かれたかなんて、咄嗟の事で数えられなかったし】
3人は溜め息をついて、とにかくそこを離れようと歩き出した。
「そりゃそうだろうけどさあ」
「近付いたらわかるっていう割に、大事な時に出て来ないとか」
「ないわあ、サン」
【それは、ああ、すまんと思ってるぞ。うん。すまん】
仕方がないと苦笑し、歩を進める。
その足が止まったのは、見た事がある男に声をかけられたからだった。
「君達、ちょっといいかな」
ジーナだった。
スレイ達は緊張を押し隠して、ジーナを見た。
「何か?」
「えっと、君達は漂泊者か?」
「はい、そうですよ」
「その年でねえ。親御さんは反対しなかったのか?」
「……俺達、もう成人してるぜ、おっさん」
セイがそう言って、スレイとレミも頷いた。
「それに、君は女の子だろ」
それにレミがブルブルと首を振り、セイも両手を振る。
「違うよ、ボク、男の子だよ?」
「そう!な!?」
「まさか、この場で脱げとでも?」
ジーナは苦笑し、そばまで来て言った。
「手配の3人組はお前らだろ?警察を甘く見るなよ。誤魔化したって無駄だ」
スレイ、セイ、レミのまとう雰囲気がサッと硬化する。
「ああ、待て。慌てるな。
聞かせてくれるか。お前らは、何をしたんだ?なぜ追われている?正直に話してくれ。力になれるかもしれん」
ジーナはそう言って、待った。
スレイ、セイ、レミは、ジーナをしげしげと見て、寄り集まった。
「あのおっさん、信用できるのか?もじゃもじゃだぜ、髪の毛」
「ヘアスタイルは関係ないよ、セイ」
「いいや。俺の村にいたもじゃもじゃのおっさんは、ぼけっとして仕事もできないのに、浮気して横領して愛人と逃げたんだぜ」
「あのおじさんは、もてそうにないと思うよ、ボクは」
「落ち着いて、2人共。
僕達を見つけ出したんだし、仕事はできる人だよ。それなりに。後、まだわからないけど、問答無用で捕まえようとしないだろ。できたのに。だから、取り敢えずは信用して、話してみたらどうかな」
それで3人はジーナをじっと見た。
ジーナは所在なさげにしながら、
「ああ。聞こえてるぞ、坊主達」
と言った。
「俺は1人だ。部下は連れて来ていない」
両手を広げて、そう続ける。
「おじさんは」
「ジーナ・ケリーだ」
「ケリーさんは、何でそんな提案をするんですか?」
ジーナはうんと頷いた。
「命令が胡散臭いからだな。出したところの動きもどうにも気に入らん。連れて行けば、まずい事になるんじゃねえかって気がする。まさか陛下と法王がって思うがね」
それにセイが噛みつく。
「あいつらはろくでもない奴らだ!何が神だ!」
「そこんところを、聞かせてくれねえか」
スレイ達は顔を見合わせ、頷き合うと、これまでの事を話した。
まあ、サンの事や自分達の真の能力の事は話してはいないが。
「青い石を使った人体実験ねえ」
「本当だって!ほとんどが死んで、残りが、その、化け物みたいな姿になっちゃったの!」
「ああ。その死体は一度見た。見た事もない姿で驚いたよ。そうか」
ジーナは考え込んだ。
「だから俺達、捕まったら殺されるか、解剖されるんだよ!」
「少なくとも、人道的な扱いは期待できないと思います」
「嫌よ、そんなのぉ」
レミが泣きべそをかき、セイが悔しそうに唇を噛む。
その時、新たな声がかけられた。
「それでも連行する」
ハッと全員がそちらを見る。
「エランって呼ばれてた人!」
「エラン・アド、近衛隊の隊長様だぜ」
ジーナが、3人とエランの間に立って言う。
「聞いただろ。これでもこいつらを連れて行くと?」
エランは表情を変えずに言う。
「命令に従うのみだ。兵が命令を疑ってどうする」
「ハッ!お偉い近衛隊長さんは、とんだ石頭だぜ」
ジーナが笑うが、目は油断なくエランを見ている。
「そいつらを引き渡せ」
「嫌だと言ったら?」
「クビで済まんぞ」
緊迫した空気に、誰も口を開かなかった。
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