第27話 枯れる森
気配を殺し、静かに、静かに、ギリギリの所まで近付く。すると相手はハッとしたように顔を上げ、辺りを見回して警戒するが、遅い。
セイはナイフを手に飛びかかっていた。
が、相手はすばしこく身を翻し、逃げ出した。
しかしそこにはスレイがいる。
慌てて向きを変えようとして横へ跳び、レミの投げた網に引っかかって捕まった。
「おお!やったぜ!」
セイは網の中でじたばたもがいているウサギを見て歓声を上げた。
「成功だね」
スレイが言うと、
「かわいい。けど、美味しく食べるからね。ごめんね」
とレミがウサギに謝った。
動物を狩るのも、捌くのも、随分慣れた。食べられる植物と食べてはいけない植物も、かなり見分けがつくようになった。
野草と、もう少し鳥とウサギを狩って、今夜の宿代になりそうな程は稼ぐ。
「こんなもんかな」
「じゃあそろそろ町の方へ下りようか」
「うん!」
そう言って歩き出した3人だが、しばらく行った所で足を止めた。
左側から、鳥や動物がやたらと飛び出して来るのだ。そしてそれらは、一目散に右側へ走り抜けていく。
「何だ、これ?」
「最初はどんどん獲物が飛び出して来るなあって思ったけど、変じゃないか?」
「おかしいよね、流石に」
まるで、何かから逃げ出すかのように見える。
3人は顔を見合わせてから、山道の左側の茂みの奥を覗きこんだ。
木が生え、下生えが茂り、雑草が伸びている。そして、木に巻き付いたつる性の植物は花を咲かせていた。
「別に変わりはないぜ?」
セイが言い、あ、と続けた。
「花が枯れてる?」
奥の方の花が、順に次々と枯れているのだ。
「え!?急に枯れたりするもの!?」
レミは目を丸くする。
「あんなに急激にって聞いた事無いよ。
もしかして、動物はそれから逃げてたのかな」
「その元凶って何だよ?」
首を捻っていると、何かが飛んでいるのが見えた。
「鳥?」
その鳥のような何かが通った後は、花が枯れ、木は葉を落としている。それを見ると、3人も警戒心が沸き起こる。
「ヤバいやつなんじゃねえ?」
「毒を撒いてるとかかも」
「に、逃げようよ」
3人も慌ててそこを離れて走り出した。
そして数メートル先で振り返ったセイは、大声を上げた。
「うわっ!変な奴が追いかけて来てるぜ!?」
ギョッとしてスレイとレミも振り返ってみると、その何かがこちらへ向かって飛んできているのが見えた。
ちょうちょの羽のようなもので飛んでいるのだが、頭がやけに大きい。それもそのはずで、付いているのはヒトの頭だった。そして羽からは、パタパタとするたびにキラキラと光る鱗粉のようなものが落ちて行き、それが落ちた所の雑草が枯れていく。
「あの鱗粉が毒みたいだ。吸い込まないように」
言いながら、布で鼻と口を覆うようにし、フードを被る。
「何なんだよ、あれえ!!」
セイとレミも布を巻いてフードを被り、走って逃げる。
「来た!」
サッと道の左右に避けると、間一髪で間をそれが通り抜ける。
それは、ヒトの頭を持つ、大きな蛾だった。
飛んだ真下の雑草がしおれて行く。そして運悪くそこにいたネズミが鱗粉を浴び、痙攣して死んで行った。
蛾は数メートル先で反転し、再びこちらを向いた。
「あれ、ノリスだぜ!
うわ!また来るぜ!」
3人は慌てて反対向きに走り出した。
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