第28話 ノリス

 ノリスは、同じ馬車に乗り合わせて来た少年だった。青い石の部屋に閉じ込められた後、蛾の羽が生え、体が小さくなったのをセイは見ている。

「レミ!」

 レミがすかさず、超音波を発する。

「ああああー」

 ノリスは一瞬グラついたが、今度はノリスも

「キイイイイイ」

と声を上げながら通り過ぎていく。

 2つの声に挟まれたスレイとセイは、頭がクラクラした。

「あいつ、平気なのかよ?」

「もう一回やってみる!」

 反転したノリスの向かって、レミが再度声を上げる。

「ああああー」

「キイイイー」

 ノリスは数メートル先で停まって羽ばたきながら、声を上げている。

「あいつ、レミの声と同じような物を出せるんじゃないか?」

「そうだね。反対の周波数で、効果を打ち消すものなんじゃないかな」

「まずいぜ」

 ノリスはその場で3人を見ていたが、羽をばさりと動かすと、距離を詰めて来た。

「ノリス!やめろよ!」

 セイが叫ぶが止まらない。

「ちくしょお!」

 セイはナイフをしまい、手を伸ばした。

「セイ!?」

 スレイとレミは驚くが、ノリスは真っすぐにセイの頭上を目指した。

 セイの腕がノリスの体を掴もうとするが、届かない。

 しかし鱗粉はまかれて、セイの周囲の雑草を枯らす。

「キイ」

 ノリスは上空で反転し、無傷のセイに再び突っ込んで行った。

 セイは今度は飛びかかって行ったが、またも、手は空を切った。

「セイ!」

 スレイが足元の木の枝を放る。

 上空で反転したノリスが、意地になったようにセイに突っ込んで来た。

 セイは後ろ手に隠した木の枝を、頭上を通り過ぎる瞬間を狙って振った。それで木の枝はノリスの胴を叩き、ノリスは大きく体制を狂わせた。

 そこにセイが覆いかぶさるように捕まえに行く。

「スレイ!」

「キイ!キイ!」

 鳴くノリスの胸にスレイは手を当て、心臓を止めた。

「ギイイ!!」

 鳴き声を一声あげ、ノリスは死んだ。

 スレイ達はノリスを囲んで、座り込んだ。

「ノリス、少ししか話はしなかったけどよ。虫が好きって言ってたんだ」

「うん」

「花も動物も好きって」

「うん」

「こんな、花を枯らせて、動物を殺して回るようなのになんて、なりたくなかったに決まってる」

「うん。そうだよね」

「ちくしょおお!!」

 スレイとセイとレミは、木立の下に穴を掘り、そこにノリスを埋めた。

「ここなら寂しくないよ、きっと。ね、スレイ」

「ああ。森はまたすぐに再生する。動物だって戻って来るよ」

 セイは頷き、ノリスに被せた土をポンポンと叩いて、立ち上がった。

「行くか。ここにノリスを連れて来たやつが見に来たらまずいもんな」

 そして、荷物を背負い直し、連れだって歩き出した。

 山を下りたところで、ギョッとする。

「何だよ、あれ」

「シッ」

 フードを深くかぶり直して歩きながら、横目でそれらを見た。

 馬車の荷台に布を被せた檻が置かれ、その馬車を囲むようにして、軍人らが数人立っていた。

「帰って来ませんね、隊長」

 中の1人が山の中を見るようにして言う。

「まさか逃げたんじゃ」

「その心配はありません。一定の距離を離れると、首輪が絞まるのです。それで、それ以上は離れないで戻って来るように、学習していますから」

 白衣のヒョロリとした男が言い、エランがそれに頷いた。

「間違いないのならそれでいい」

 スレイ達は、横目でエランの顔を見た。エランもジロリとスレイ達を見た。

 しかし、髪の色が違うのと、「少年3人組」だから違うと判断し、すぐに目を山に戻した。


 すれ違い、町に入ったスレイ達は、獲物を売って、それで宿に宿泊した。

 そして、ベッドに座って口を開く。

「あいつが、追っ手か」

「まあ、その1人だろうね」

「あいつら、ノリスを道具みたいに言ってたよね」

 怒りが湧き上がるが、同時に、あのエランに対しては、注意しなければいけないという危険信号がともる。

「今に見てろよ」

 セイが壁を睨みつけて行った時、お腹がグウと鳴り、一拍置いて、3人はゲラゲラと笑い出した。

(今に見てろよ)

 笑いながら、スレイもセイもレミも、心にそう、強く誓った。





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