第26話 噂
パブはどこの町でも大抵賑わい、そしてアルコールは口を軽くするものだ。
私服でパブのカウンターに陣取ったジーナは、仕事のグチや奥さんへのグチに見せかけたノロケなどを聞いていた。
(そろそろこんなものかな)
引き上げ時かと考え始めた頃、新しく入って来た行商人らしいグループが、乾杯の後で喋り出した。
「何か最近、おかしくないか。教会が」
「ああ。特別奉仕員か?各村から1人ずつってやつな」
「そうそう。それも、13歳から15歳だったっけ?どういう基準だ?」
「しかも、行ったら最後、連絡すらも取れないらしいしな」
「実はその馬車が一カ所に集められたんだけどよ。そこの食料の納品を請け負ってたから、知ってるんだけど。買い入れの量とか、おかしいんだぜ。少なすぎるんだ」
「じゃあ、集められたやつらはメシ抜きか?」
「まさか」
「その前には、家を失ったやつらを救済って集めてただろ?その分もどうもないんだよなあ」
「教会の庭で何か作ってるとか」
「そんな場所がないのは知ってるぜ」
「それと、子供らが集められてから、やたらと焼却炉が毎日使われてたんだ」
「おいおいおい。教会が集めた子供を殺してるとか言うつもりか?」
「流石にそれはねえだろ」
「流行小説じゃあるまいし」
それで話題は別のものに移った。
ジーナは、そう言えばと思い出した。
皇都の外れの教会施設に、馬車が集まったと噂があった。そしてその後、火事を出したと大騒ぎになったのだ。
(関係ないか?でもな。気になる。
あの3人を教会の連中が探しているらしいのは知ってるが、まさか、それか?放火?)
ジーナは「勘」というものをバカにしていない。勘というものは、無意識の中で大量の情報やこれまでの経験などが結びついたものだと思っている。言わば、物差しできちんと測らなくても目分量で長さがわかるのと似たようなものだと。
(調べてみるか)
ジーナは席を立ち、目立たないように店を出て行った。
エランはその村に立ち寄っておかしな死体を見た後、次におかしなものが出るならどこだろうかと、頭の中の地図を睨んで考えていた。
と、その声が聞こえた。
「どうしてですか、司教様!父親が危篤なんですよ!?子供なのに、会えないなんて!」
司教と農民らしき女が向かい合っていた。
「だから、最初に言ったでしょう。特別奉仕員になると、出られないし、家族とも会えないって」
「なんでなんですか!そんなのわかりませんよ!一体何に奉仕しているんですか、私の息子は!
色んな噂がありますよ。教会は子供をたくさん集めて生贄にでもしてるんじゃないかとか!」
「バカな話を。
無茶を言わないでください。ダメなものはダメなんです。私が決めたわけじゃなくて、法王様がお決めになったんです。
さあ、もう帰って。さあ!」
エランはそのやり取りを見ていて、思った。
(確かにおかしな話だ。修行中は俗世と関わりを絶つ、ならわかる。だが、そういう限定的な話でもなさそうだ。
そう言えば、陛下は最近、法王とエッジとかいう胡散臭い学者とよく人払いをした上で会談をしていらっしゃるな。何か、関係でもあるのだろうか……。
まあ、私には関係ない。私は私の職務を全うするだけだ。余計な詮索など、してはならない)
エランは軽く頭を振って、その考えを振り払った。
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