第14話 闇の奥
皇帝リカルド、法王パドリック、学者ロドルフは、人払いをした部屋で集まっていた。
「脱走した3名は、成功体だったのだな」
エイカルドの問いに、ロドルフが答える。
「はい。自分の血液をかけた場所を焼くことができる者と、体を強くして刃を通らなくする者と、耳が良くて壁越しに囁き声を聞き取れる者でした」
「もう1度生み出せないのか?」
「何がどう変化するのかはもちろん、変化するかどうかもわからないですからなあ。量を増やせば、中に成功例が混じるのではないかという程度で」
それにパドリックが眉をしかめた。
「施しや特別奉仕員、もう人を集める名目がありません。これ以上は怪しまれるだけです」
「ふむ。では、兵士ではどうだろう?」
ロドルフの提案に、リカルドがいい顔をしない。
「数人の成功体の為に多くを犠牲にするのだろう?兵の数を減らすわけにはいかない」
「これまで何をしてきたのだ、ロドルフ」
「仕方が無かろう、パドリック。あの青い石の事は、何一つわからないんだからな。全くの未知の物質だ。心が躍る。実に、興味深い!
本当に異世界はあるのではないのか?そこへ行く事ができるのではないか?この世界の構造はどうなっているのか?
興味深い。実に!興味深い!」
ひとり興奮するロドルフに、リカルドもパドリックも軽く眉をひそめた。
「とにかく、脱走した被検体を探させろ。この帝国を盤石の強国にするには、強い兵が必要だからな」
リカルドが言い、パドリックは頭を下げ、ロドルフはキヒヒと笑った。
エラン・アドは、手配書を見ていた。
近衛隊の隊長だが、特別任務として、この3名を探し出して捕獲するようにという命令を皇帝から与えられたのだ。
手配書によると、3名はいずれも14歳で、少年2人と少女1人。少年は、片方が黒色の髪に黒色の目、もう片方は茶色の髪に翠色の目。少女は茶色の髪に茶色の目。背は高くも低くもなく、太っても痩せてもない。
それだけだ。この特徴に該当する人物は、国内にごまんといるだろう。
しかし、命令とあらば、遂行するのみ。エランは静かに、追跡を開始した。
ジーナ・ケリーもまた、手配書を見ていた。
警察の特殊犯罪係の警察官だ。まあ、テロリストや難事件、猟奇事件などを担当するところだ。
「これで探せってか」
街の真ん中で辺りを見回したら、必ず複数人見つかるような容姿だ。
「そもそもこいつら、何をしたんだ」
普通なら何かしら書いてあるはずなのに、「秘」となっていて、とにかく見付けて連れて来いという事になっていた。
わからないが、仕方がない。知らなくていい事というものは、確実にあるのだ。
ジーナは、わかっている所までの足取りを確認する事にした。
スレイ、セイ、レミは、洞窟で雨宿りしていた。枝とロープを使って干してある外套も、焚火で乾かされて、ようやく湿り気が取れた。
「明日は晴れるかなあ」
セイが、ウサギの足をあぶりながら言う。
「雨のせいで、山道が崩れてないといいけど」
スレイは外の方へ心配そうな顔を向けながら言う。
そんなスレイに、レミは焼けたそれを差し出した。
「焼けたよ、スレイ」
スレイはそれを見て、ちょっと目をさ迷わせた。スレイは貧血になり易いのだが、レバーが嫌いだった。
「だめだよ、スレイ」
「う、うん。でも、他の物で何か貧血にいいものってないかな」
それにセイがちょっと笑い、スレイを後ろから羽交い絞めにした。
「うわっ」
「ほおら、スレイ、観念して食えって。
レミ、やれ」
「はあい」
「ま、待て!やめろ!」
「往生際が悪いぜ、スレイ」
レミは塩を振って焼いたレバーを、スレイの口に押し込んだ。
スレイは嫌そうにして、さほど大きくないそれを、どうにか呑み込む。
「よし、食ったな!」
セイがウスレイを解放してわははと笑う。
「スレイ、ごめんね。でも、スレイの力が力だから」
レミが済まなそうに言うのに、スレイは苦笑した。
「うん。わかってるよ。ありがとう。
でも、できれば別のもので貧血を何とかしたい」
セイとレミは吹き出し、やがて3人揃って大笑いした。
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