第13話 化け物と化け物
ガンツは、もうだめだと絶望した。
その瞬間、飛びかかって来た化け物と目の前の化け物が、爆発した。
「え?」
いきなり開けた視界の向こうには、警戒する犬の化け物が4頭と、右腕に大振りの短剣を握り、左腕から血を流しているスレイと、警戒している化け物の1頭に殴り掛かっていくセイ、折り畳みの盾を片手に立つレミがいた。
「どうしてここに!」
「いいから!こっちへ!」
レミが言いながらガンツの側へ走り寄り、ガンツの腕を引く。
「坑道から逃げて!」
「バカを言うな!子供達を残して逃げられるか!」
ガンツはそう怒鳴り返したが、それにスレイとセイとレミは、どこか悲しいような嬉しいような微笑みをわずかに浮かべ、
「大丈夫ですから」
「俺達は、漂泊者だぜ!」
と笑ってみせた。
「でも、こんな化け物聞いた事も見た事もないぞ!」
「いいから行って、お願い」
レミがそう言ってガンツを坑道の入り口の方へ体でおしやり、盾で化け物達から遮るようにする。
ガンツはまだためらっていたが、レミの盾があるせいで手を出す事もできず、突っ立っていた。
と、セイに近い1頭がセイに牙を剥きつつ飛び掛かって行き、腕に噛みついた。ガンツはそれで、腕をかみちぎられるものだと背筋が凍り付いたが、セイはその化け物の体を思い切り蹴り、口が緩んだところで、思い切り殴りつけて吹っ飛ばした。
スレイの方はというと、ナイフを振るったはいいが、なぜか自分の腕を斬りつける。
するとそこから勢いよく血が流れ、その腕を振ると、流れ出た血が唸り声を上げて飛びかかるチャンスを窺っている化け物達に勢いよく降りかかる。
そして、なぜかそれらの血を浴びた化け物達は、爆ぜた。
「――!?」
ガンツは、目の前の光景を、どう処理すればいいのか混乱した。
やがて犬のような化け物は全て死に、その場にコロンと小さな青い石が転がった。
「あった」
スレイはそれにもう一度血を滴らせ、爆破すると、セイと一緒に振り返った。
「もういないかな」
「だと思うぜ」
その表情はいつもと同じで、2人共、噛まれた痕も、ナイフで切りつけた痕もない。
ガンツは、危うく声に出すところだった。
化け物は、どちらだったのか?
それが伝わったわけではないだろうが、幾分ぎこちない笑みを浮かべ、スレイ、セイ、レミは、
「えっと、僕達、行くね」
「できれば、この事は言わないで欲しいんですが」
「アンナの姉ちゃんと仲良くな!」
というや、足早に坑道を入り口の方へと走って行った。
ガンツは中途半端に引き留めかけ、それもできず、礼を言いそびれた事に気付いた。
「あ、待て。待ってくれ!」
慌てて追いかけるも、もう3人の姿はどこにも見えなかった。
急いで木々に紛れながらそこを離れたスレイ達は、充分に離れた所で息をついた。
「ふう。石の欠片は見付けたな」
「ガンツさんが無事で良かったぜ」
「これ、傷はすぐに塞がるんだけど、貧血は治らないんだよな」
「次はスレイ、レバーを食べないとね」
「……あれ、苦手なんだよ」
フードを深くかぶり、笑いながら3人は山の中を歩き出した。
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