第12話 急な知らせ

「大変だぁ!!」

 息せき切って男が走って来たのは、その翌日の午前中。スレイ達が朝食を終え、まとめた荷物を背負って、チェックアウトの手続きをしていた時だった。

 その男はガンツと同じく郊外の鉱山で働いている男で、ガンツらと一緒に、鉱山にいるはずだった。

「どうしたの」

 目を丸くしながらも、鉱山で働く男が大変と言う事から、もしや落盤ではと、誰もがそう想像した。

 だが、男は青い顔で、唾を飛ばしながら息も絶え絶えに言った。

「化け物が、襲って来た!」

「化け物?」

 聞いた方は怪訝な顔付きで訊き返すが、スレイ、セイ、レミは、表情を引き締めた。

「あんなの見た事ねえよぉ。犬みたいだけど、2本足で立って、俺達のツルハシなんかを振り回しやがるんだ。なのに牙も鋭くて」

 そこにいた皆は顔を見合わせた。

「夢でも見たんじゃないか?それか、サルかなんかを見間違えたか」

「違うって!」

「ああ、で、そいつは今どこにいるって?ほかの鉱山の連中は?」

「そいつが5番坑道に入り込んで、追いかけ回されてるよ!」

 それでアンナの顔色が変わる。

「5番?」

「そう!ガンツの所だよ!

 ガンツが奥にまだいたんだけど、そいつらが出て行ったらまずいからって、自分で入り口を中から閉ざしやがった!」

 それを聞いて、聞いていた皆は真っ青になった。

 スレイ、セイ、レミは、素早く目を見交わすと、山に向かって走り出した。


 恐れていた事が起こった。

「サン!この近くに石の欠片があるんだな!?」

 サンは頭の中から返事をした。

【ああ。あの時欠けて飛んだうちのひとつが近くにある。その影響を、犬か何かが受けたのかも知れん】

「チッ。気付かなかったのかよ!」

 セイが言うのに、サンは唸った。

【元はもっと離れた所にあったんだろう。それを犬が取り込んで運んだとか】

「食べたってこと?」

 レミが目を丸くする。犬は、石なんか食べないものだ。

【もしくは、欠片が犬を直撃したか】

「とにかく急ごう」

 スレイ達は足を速めた。


 ガンツは坑道を走り、化け物を撒こうとしていた。

 だが、すばしこい上にどうやら鼻も利くらしく、逃げ切るのはどうも不可能だと思われた。

「アンナ……」

 ツルハシを構えて化け物に対峙し、怯える自分を叱咤する。

(ここで息の根を止めるか、弱らせておけば、駆け付けて来る警察の連中がとどめを刺してくれる。アンナ達に危険は及ばないだろう)

 そう考え、低く唸り声を上げる化け物らを睨んだ。

「来い!」

 そう叫ぶと、中の1頭がツルハシを振り上げてかかって来た。

「クソッ!」

 それをツルハシで受け止める。力の勝負で負けるとは思っていなかったが、間近に迫る顔は、やはりヒトのものではない。犬だ。大きな半開きの口からは牙と舌が覗き、涎がこぼれている。

 と、別の1頭が四つ足の体勢から、飛びかかって来た。

「うわっ!」

 ガンツはこの時、人生初の、走馬灯というものを体験した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る