第11話 漂泊者

 郊外にあるその街は第二の首都という位置づけの大きな街で、スレイ、セイ、レミは旅をしながら狩りなどをして歩く「漂泊者」としてその街に着いた。

 人が多いので、旅行者や新参者にも注意を払わないだろうという目論見は当たり、誰かに疑われりしている様子はない。

 3人はここへ来る途中、これからどうするかをよく話し合った。

 その時に、スレイは頭の中に声が聞こえて来るのに驚いた。変な夢かと思っていたが、どうも、石に憑りついた男の幽霊は、本当にスレイに憑りついたらしかった。

 男は名前をサンと言い、スレイから離れる事はできないが、セイとレミにも声が聞こえるようにできるようだ。

 そしてサンの言う事には、異世界からこの世界に来た時、衝撃で石が割れ、いくつか飛んで行ったのだという。

 そこで3人は、これからどうするか話し合った。

 実験の事を公表する。騙してこんな酷い実験をしたと公表し、この責任をとってもらいたいからだ。

 砕けた欠片を回収する。放置すれば影響を及ぼすので、回収し、死んだり魔物になったりしないようにするのと、こういう実験を二度とさせないようにするためだ。

 この2つが大きな目標だ。

 ただ、自分達の事を言うのは、様子を見てからにしようと決めた。自分達が変わってしまったので、危険物扱いされるかもしれないのと、タイミングや相手を選ばないと、別の人間に利用されるだけになってしまうからだ。

 そこで、まず欠片を探して旅をする事にしたのだ。欠片の場所については、サンが大まかにはわかるという。

「方々に手配書が貼ってあるな」

「微妙に似てないけどね」

 スレイ、セイ、レミの脱走はばれ、似顔絵の書かれた手配書が貼られていた。しかしあまり似ていない上、名前も不明だ。何せ、被験者達は番号で管理されていたのだから。

 まあ、似顔絵は、さほど似ていない。髪の色を誤魔化し、シラをきればどうにかなる程度だ。なので、漂泊者がよく着ているフード付きの外套はお誂え向きだった。

「それでも、なるべく兵と教会には近づかない方がいいな」

 小声で言いながら、修道士が歩いているのからさり気なく顔を隠し、3人は泊っている宿屋に入った。

「お帰りなさい」

 オーナーの娘、アンナが笑顔で声をかける。

「ただいま」

「すぐに夕飯にできるけど、どうする?」

 訊かれて、セイがお腹を押さえた。

「俺、もうペコペコだぜ」

「そうね。お願いしようよ」

 レミも笑ってそう言い、アンナはニッコリとした。

「わかったわ。テーブルに座ってて」

 それでスレイ達は食堂のテーブルに着き、アンナは厨房に入って行った。

 この宿は親子で営業しており、アットホームな雰囲気で、ご飯は量も味も良く、値段も良心的だ。それで街でも人気で、食事時はいつも賑わっている。

 テーブルに着いて待っていると、ほどなくアンナが今日の定食を運んで来た。

「はい、お待ち同様。ポークカツとサラダとスープ、パンとチーズとフルーツね」

「おおお!」

「いただきます!」

「うんめえ!」

 目を輝かせるスレイ達にアンナは目を細めた。

「何かサービスがいいんじゃないかよ、そのお子様」

 常連の1人が冗談を言うのに、アンナは、

「育ち盛りの子供だからね。いっぱい食べなきゃ」

と笑う。

「アンナちゃんは子供好きだからなあ」

「おい、ガンツ。こりゃあいっぱい子供を作って、いっぱい稼がないとな!」

 常連客は仲間のアンナの恋人の背中をそう言ってどやしつけ、豪快に笑った。

「ば、バカな事を」

 真っ赤になるアンナと、赤くなりながらも嬉しそうに

「はい!」

と答えるガンツに、店中が笑いに包まれる。

 ここはいつも、こういう温かい空気に満ちていた。




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