第10話 因果応報
「きれいだなあ。高いんだろうなあ、これ」
「やめろ、それは――!」
掴みかかろうとしたが、ぶつかり、弾みで石は、息子の喉の奥に入ってしまった。
「グエ!飲んじまったじゃねえか!勿体ない!」
吐き出そうとする息子から、スレイもセイもレミも距離を取る。
「大丈夫か?」
村長がそんな息子のそばに寄り、背中をさする。
「吐き出せるか?」
「やってみる。おえっ、げえっ」
しかし次の瞬間、息子は背を丸め、グッと詰まったような変な声を出した。
「どうした?」
村長が訊くその目前で、息子は見る見る別物に変わって行く。
背中から尖ったなにかが突き出され、顔が長くのびる。そして大きく裂けた口から、鋭い牙と涎が見えた。
「皆、こうやって……」
レミが震える声で言い、3人はジリジリと後ずさった。
「お、おい、何だこれは!?どうした!化け物だ!」
村長は腰を抜かし、そして、息子だったものに、頭を食われた。
頭蓋骨を噛み砕く音を背中に、3人は相談した。
「どうする、これ!?」
セイが焦った声を出す。
「放って置いたら村の人が襲われるかも知れない。倒しておこうか」
「ど、どうやって?」
レミが震えながら言うが、スレイとセイは落ち着いて、村長を食べる息子に近付いて行った。
スレイは腕をガラスで斬り、血液を息子に振りかけた。
次の瞬間、血液のかかったところが爆発し、息子がのたうつ。
「だめだ!皮が硬い!」
「俺に任せろ!」
セイが頭に飛び付き、裏返しにして抑え込む。
それでスレイは、皮の薄そうな腹側に血液をぶちまけた。
そして、セイが飛びのいた瞬間に爆破。
「ギャウ!!」
息子は一声鳴いて、腹を爆ぜさせた化け物の姿で息絶えた。
スレイはフラリとするのをこらえた。
「どうする、これ。埋めた方がいいかな」
レミが言うのに、セイがキョロキョロとする。
「農機具は外か?」
「いや、燃やそう。死体が見つからない方がいい。足取りを知られる元だ」
言いながら、スレイは何かいい物は無いか探し出した。流石に家を燃やすほども血液を撒き散らすのは命に関わる。
「でも、スレイ。いいのか。ここはお前の」
セイが言うのに、スレイは答えた。
「どうせ、戻れないし、家族も戻って来ないよ。
何か使えそうなものは持ち出そう」
そう言って、父親の使っていた狩猟用のナイフなどが残っているのを見付けた。
セイとレミも戸惑う様子を見せていたが、振り切るようにして、辺りを探し出した。
そうして選んだものを持ち出すと、残っていた油を撒き、火を付けた。
「こいつら、自業自得だよ」
レミがポツンと言う。
「ああ。そうだな」
「行こう。人が来る前に離れないとまずいぜ」
そして、離れて行く。
振り返り、燃え上がる我が家を見る。
色んな思い出が頭をよぎる。楽しかった日々、優しい家族、別れた日。そして、ガラスの向こうから見下ろす皇帝達3人。
村人達が火事に気付いて騒ぎ出す前に、山の中に姿を隠した。
「なあ。あの皇帝陛下や法王やもう1人。復讐してやろうぜ」
セイが低い声で言った。
「そうだね。原因は、あいつらだよ。人を何だと思ってるんだろう」
レミが悔しそうに言う。
「そうだな。騙してまで人体実験するなんて、許せないよな」
スレイは淡々と言った。
「よし!じゃあ、取り敢えず、どこに行こう?」
努めてセイが明るい声を出すと、セイもお腹を押さえて見せる。
「お腹空いちゃったよ」
それにスレイも笑う。
「じゃあ、野宿できそうな所を探して、そこで今後について考えるか」
各々スレイの父親の作った革の肩掛けカバンをかけ、しっかりとした足取りで3人は歩き出した。
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