第9話 復讐リスト
誰も何も言わなかった。黙ったまま走り、少しでも遠くに、少しでも早くと、それだけを考えて走った。やっと足を止め、息をついたのは、教団施設からかなり離れ、辺りが明るくなり始めた頃だった。
「どうする、これから」
セイが川の水で喉を潤してから言う。
スレイは辺りを見回し、気付いた。
「ここ、川をもう少し遡ったら僕の家のある村だな」
「じゃあ、まずは行ってみない?」
レミが提案する。
「でも、教団の人間が探しに来たら、すぐにばれるよ」
「そっと覗くだけでもいいじゃねえか。俺の家は遠すぎるし、大体口減らしにちょうどいいとばかりに放り出されたからどうでもいいしな」
「そうだよ。ボクも孤児だから家なんてないもんね。でも、スレイは気になるでしょう?」
セイとレミに言われ、スレイもそれは認めた。
「まあな。村長が約束を守って税を肩代わりしてくれてるとは思うけど……心配は心配かな」
「決まり!陰から覗くだけでも行ってみようぜ」
「とっておいたお菓子食べながら行こうよ!」
セイとレミに言われ、スレイは苦笑しながらも、感謝した。
「ありがとう」
そして、ハンカチに包んでおいたお菓子を食べながら、歩き出した。
徒歩で向かい、昼過ぎには村の近くまで来た。
「この時間なら、母も姉も畑に出てる時間だな」
「父ちゃんは?ケガしてたんだっけ」
「ああ。去年熊にやられて、何とか杖を突けばゆっくり歩けるくらいだったんだ。だから、家で木彫りとか矢じりを作ったりしてるよ」
「回復してるかなあ。家を出てから2ヶ月だもんね」
レミがウキウキとして言う。
「姉ちゃん美人か?」
セイも楽しそうだ。
そんな2人と一緒で、スレイも、ウキウキしてくる。
家は村外れにあったので、人に見られることなく接近することは難しくなかった。木立の陰から、そうっと窺う。
しかし、スレイは違和感を覚えた。
「あれ?」
母も姉も姿が見えない。それだけでなく、畑が荒れていた。家もどことなく空虚な感じがするし、洗濯物も干されていない。
レミも、怪訝そうな顔をしていた。
「ねえ、スレイ。音が全然しないよ?」
嫌な予感がする。
「出かけてるのか?」
セイが言うが、たまらず、スレイは家へ駆けこんだ。
「嘘だ。何で……」
父が座って作業していたところには、木の屑や木切れが転がっているだけで、何も無い。母が料理を作っていた台所はすっかり熱もなく冷えきり、うっすらと埃が溜まっていた。部屋の方も、めぼしい物は無くなり、埃が溜まっていた。
「引っ越した?」
頭がガンガンする。
「あれだ。雨漏りかなんかが激しくて、引っ越したとかじゃねえ?」
セイが言うが、雨漏りしたような形跡はない。
「誰か来るよ!」
レミが声を潜めながら警戒をにじませた声を出し、取り敢えず3人は身を隠した。
しばらくして入って来たのは、村長と息子だった。
「あの移住希望者、来月来るんだよな」
息子が言う。それに村長が答える。
「ああ。今度の奴は、税をきちんと納めてくれりゃあいいけどな」
「そうだね。奴隷商人に売ろうとしたのに逃げられたし。丸1年近く、損したよな」
気付くと、スレイは村長の胸倉をつかんでいた。
「うわあ!え、スレイか!?」
「父さんと母さんと姉さんはどうした」
村長は言葉に詰まったように、目をさ迷わせた。
息子の方はスレイに掴みかかろうとして、セイに取り押さえられている。
「何してやがるんだよ!離せ!」
「黙れ、お前」
セイは関節を決めて、息子を絞めつけた。
「答えろ」
スレイは村長に、温度の無い声で迫った。
答えたのは息子の方だった。
「税を払えなくて逃げたよ!」
「やめろ、ロン!」
村長が慌てるのに構わず、息子はスレイを睨んだまま言った。
「何でだよ。本当の事だろ。自業自得だ。
税を払えなかったから奴隷商人に売ろうとしたんだよ。でも、その前に逃げやがった。でも、おじさんが歩けないから、熊に襲われて逃げ切れなくて、3人共食われていたのを後から捕まえに行った村の奴らが見付けたぜ!
惜しかったなあ。お前の姉ちゃん美人だったのに。売るか、俺の愛人にしてやってもいいかと思ってたのにさ」
セイは何も言わず息子を殴りつけた。
スレイは真っ青な顔の村長に言った。
「約束したのに?代わりに僕が特別奉仕員になるから、働けるようになるまで税を肩代わりするって。どういう事です?」
村長は溜め息をつき、尊大そうな口調で言った。
「騙される方が悪いな。
それよりも抜け出して来たのか?教会に知らせないとな」
スレイは村長を殴りつけた。
「何しやがんだ、スレイ!自業自得じゃねえか、バーカ、バーカ!貧乏人はそういう運命なんだよ!」
息子が憎々し気に言うのに、スレイは黙って近付き、殴りつけた。
「痛えな!」
息子は殴り返そうとして、取っ組み合う。
と、床に転がった拍子に、ポロリと何かが落ちた。
「青い石の欠片!」
スレイとセイとレミが顔色を変えた。ズボンの折り返しかどこかに入っていたらしい。
しかしそれが何か知らない息子は、息を呑んだ隙に手を伸ばし、それを拾い上げてしまった。
「あ!」
驚くスレイを押しのけ、息子はそれを光にかざすようにして、見つめた。
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