第4話 特別奉仕員

 馬車が着いたのは、皇都郊外にある教会の施設だった。

 修道士達は教会で日々仕事という修行をしているが、ここでは、教会へ派遣される前に色々と勉強したり、協会での日常の仕事から別の仕事をするための学習をしたりするための施設だという。

「でっけえ」

 馬車を降りた子供達は、周囲を見回した。

 石造りの大きな建物が3つコの字型に配置され、真ん中の中庭には、子供達を運んで来た馬車が何台も並んでいる。

 静かで、冷たい感じがした。

「こっちに馬車毎に並べ」

 不愛想な修道士に言われて、子供達はキョロキョロするのをやめ、集まった。そして、村の名前と自分の名前を言って表にチェックを入れられると、交換で番号の書かれたバッジを受け取る。

 子供は全部で120人くらいいただろうか。

「では、全員付いて来るように」

 そう言われて修道士に付いてある建物内の大きな部屋へ連れて行かれると、ドアの前で止まった。

「今からこの部屋で過ごしてもらう。自分を見つめ、いついかなる時も冷静でいられるようになる訓練だ。

 トイレは中にあるし、携帯食料と水を3回分中に置いてある。なので、時間が来るまで、何があってもこの扉を開ける事は無い」

 それを聞いて、ほとんどの子供が頷いたりやる気を見せたりし、ほかの子供は不安そうな顔をした。

「ようし、まずはこの訓練を無事に乗り越えないとな!」

 セイが言い、レミが

「じっとしてればいいんでしょう?楽だね」

と笑うが、スレイは微かに眉を寄せた。

「何だよ、スレイ。心配してんのか?」

 セイがニカッと笑って肩を組んで来る。

「心配……まあ、心配かな」

「大丈夫だって。一緒にかたまっててやるからよ!」

 スレイは苦笑し、部屋の中にゾロゾロと入って行くほかの子供達に続いて、部屋に足を踏み入れた。

 大きな円形の部屋で、天井は高く、壁のほとんどは石造りになっており、大人が3人両手を広げたほどは上半分がガラス張りになっていた。そこから差し込む光だけが、この部屋の光源になっている。

 部屋の中には何もなく、ただ、真ん中に青い石がでんと置かれていた。

「何だこれ」

 子供達は石を取り囲んだ。

 道端に転がる石でもなし、神殿に飾ってある石でもない。貴族が身に着ける宝石とも違って見える。

「高い宝石か何かかしら」

「聖人が何かされた石とか?」

 口々に言っていると、マイクで声が入った。

「全員、壁際に並んで、壁の方を向いて座りなさい」

 周囲を見ると、ガラス張りの部分に、修道士達が並んで見下ろしているのが見えた。

「うへえ、あそこから監督するんだ」

 誰かが言って、子供達は思い思いに壁際に並び、大人しく座って行く。

 スレイとセイとレミも並んで座る。

(何か、おかしい。僕達は、何をさせられようとしているんだろう?)

 スレイは思ったが、今更何かをする事はできない。大人しく目を閉じた。


 ガラス張りの窓から部屋を見降ろして、ロドルフ・エッジ博士とパドリック法王は会話していた。

「今回はどうでしょうな。ヒト試験はこれが二度目ですが、前回は全て失敗でしたからなあ」

「失敗すれば、また何か名目を付けて人を集めてくればいいだけですよ。ねえ、陛下」

 2人は背後の椅子に座った皇帝を見た。

 リカルド・ロラン。父親から皇帝の座を譲り受けたばかりでまだ若いが、野心はあり、この計画の発案者でもある。

 責任者はエッジで、法王は被検体の調達を受け持っていた。

「ああ」

 それに法王が苦言を呈する。

「しかし、最初は貧困者の保護をうたって集めてみましたし、前回は孤児を集めました。今回は特別奉仕員です。そうそう名目も付けられません。そろそろ結果を出していただかないと」

 それを聞いて、皇帝は博士に質問した。

「どうなんだ?」

「はい。最初の実験と動物実験から、未成年者にのみ作用する事はわかっております。孤児を使った実験からは、ある程度健康状態がいい事が必要だとわかっています。それを踏まえての今回です。

 私も楽しみですよ。何人が生き残って、成功例となってくれるか。ヒヒ」

「まあ、しっかりやってくれ」

 皇帝は席を立ち、それを博士と法王は見送った。

 そして、眼下の被験者達を見下した。




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