第2話 クジ

「教会へ?」

 集められた子供達とその家族は、村長の説明を待った。

「そうだ。各村から、13歳から15歳の子供を1人、教会の奉仕員に差し出すようにというお触れだ」

 それに村人たちは顔を見合わせた。

「奉仕員?何をするのかしら」

「神に一生お仕えするらしい」

 村長の答えに、別の村人が訊く。

「お仕えって、修道士とかじゃないのか?」

 それに村長は、どこかぎこちない笑みを浮かべた。

「特別な係らしくて、俗世には戻れないとか聞いた」

 それで、子供達も親達も顔を曇らせた。

「志願者はいないか」

 この村には該当する子供は5人いるが、誰も手を挙げる者はいない。

 村長もそれがわかっていたようで、5本の麦わらを差し出した。

「この中の1本に赤い糸を付けてある。それを引いたものが、行くという事にしよう」

 ごくりと皆が、唾を飲む。

「まあ、仕方ないな」

「それが公平だよな」

 言いながら、親達は我が子の肩をギュッと掴んで、それを引かないようにと願う。

 スレイの姉も、スレイの肩を痛いほどに掴んだ。

「じゃあ、順番に」

 村長の言葉に、スッと村長の息子が腕を上げ、村人が待ったをかけた。

「待った。

 村長さんを疑うわけじゃねえけど、やっぱり、村長さんの息子は最後だろ」

 強張った顔で言うのに、村長とその息子は、視線を揺らした。それで皆、村長は息子に、「当たり」の麦わらの特徴を教え込んでいたのだと察した。

「いや、それは――」

「もしくは、全く関係ない人間に作ってもらうか、じゃんけんで決めるとか」

 親も必死だ。

「……わかった」

 村長も折れないわけにはいかなくなった。

 それに、考えもある。

(うちが引くとは限らないし、引いたとしても、金でも村八分でもチラつかせて、どうにかして押し付けりゃあいい)

 そして、運命のくじ引きが始まった。

 1人ずつ、握りこまれた麦藁の端をつまむ。

「いくぞ」

 村長は言って、掌を開く。

 誰もが、自分の、自分の子供の引いた麦藁の先を確認する。

「ない!」

「ないよ!」

「よかったぁ」

「なかった」

「……」

 真っ青になっているのは、村長親子だった。


 その夜、スレイは家で、家族と食事を摂っていた。

 去年村に熊が出て、スレイの父親は襲われて大ケガをしてしまった。なので今は、母親と姉とスレイで農作業をどうにかこうにかやっている。

「奉仕員?聞いた事がないわね」

 母親も首を傾げた。

「しかも、俗世に戻れないなんて……。厳しい修行中の修道士でも、手紙は出せるし、届けを受理して貰えれば家に戻れるっていうのに」

 父親もそう言って考え込む。

「でしょう?何なのかしら」

 姉も首を傾げるのに、スレイが具の少ないスープをすくいながら言う。

「それって、何かの秘密を知ったらもう帰れないとかそういう事かな」

 両親も姉も顔色を悪くし、そして、

「スレイが当たらなくてよかった」

「村長さんのところには気の毒だったが、まあ、公平なクジだしね」

と、ほっとしながらも、気の毒そうな顔になった。


 翌朝、スレイは畑で雑草取りをしていた。

(あんまり出来は良くないな。今年の税、どうしよう)

 スレイは14なので、成人は来年だ。だから税金は、両親と姉の3人分という事になる。しかしこれでは、1人分がせいぜいだ。

(父さんが作った木彫りの置物やコースター、母さんのレース編みが目いっぱい売れたとしても、きついな。

 でも、僕が森に入っても、獲物を獲れるとは思えないし)

 溜め息が出る。

 そんなスレイに、控えめに声がかけられた。

「スレイ。ちょっといいか」

 村長だった。

「あ、村長さん」

「スレイに頼みがあってな」

 スレイは、村長の頼みがわかるような気がした。




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