24話

「時間切れだな。」

後ろにいたチンピラの1人が、名越に木槌を手渡した。ようやく道具で取っ手を破壊する事を思いついたらしい。

名越が木槌を大きく縦に振りかぶる。

「じゃあ、ちょっと行ってくる。」

水谷はジャケットを脱いで肩にかける。

「うおおおお!」

名越が木槌を振り下ろし、取っ手が砕けた刹那。

「ああああああ!」

扉ごと名越が吹き飛んだ。

一番近くにいた、木槌を手放して手ぶらのチンピラは、砕けたガラスを避けて怯んだのが致命的だった。

そむけた顔にそのまま右ストレートを食らって膝をつく。

3人目は唯一のナイフ持ち。コイツは水谷が振り下ろしたジャケットにナイフを絡め取られ、そのまま手首、腕と順番に折られて叫び声を上げた。

ここでようやく、4人目の木刀が水谷の額を打つ。

額が裂け、出血する水谷。

「ヌルいなぁおい!」

そのまま木刀を掴んで引き、チンピラの体制を崩す。力の使い方に加えて、腕力そのものに差がありすぎるのだろう、水谷が木刀をひねると、チンピラはあっさり木刀を手放した。その木刀の柄がチンピラを前歯を砕き、口の中に押し込まれる。


後の二人とは距離があったが、水谷は数歩で詰めて、腹や顔を殴って沈めていく。木刀も木槌も、当たらなければ意味がない。


「おい、青山、てめぇ何してやがる。」

ボタボタと鼻から血を流しながら、名越が吠える。

「何じゃない!ふざけるな!俺にばかり危ない橋を渡らせやがって!」

お、言うねぇ。

「バカにするなよ!俺だってやる時はやるんだ!」

口に出していたらしい。

「どいつもこいつもバカにしやがって!お前ら全員ぶっ殺してやる!」

名越が懐に手を入れた、ナイフか、拳銃か。

その背後で、水谷がニヤリと笑うのが見えた。

「おい!」

水谷が吠え、反射的に名越が振り返る。

カラン、と音がした。

足元には、ついさっきまでそこにはなかった木槌が落ちていた。

水谷は名越の背後に立った瞬間から、ずっと俺を見ている。

名越が何かを構えたが、俺に背を向けているので、何かは分からない。

その状態でもなお、水谷は俺から目を離さない。

水谷が何を言おうとしているか、俺にはわかる。

「水谷いいいい!」

名越が叫んだ。

他に選択肢はない。


俺は足元の木槌を拾い「ふっ」と小さく息を吐いて、最短距離で名越に向って振り下ろした。

俺に完全に背を向けた名越は、あっさり崩れ落ちた。

木槌を握った右手に、しびれと痛み、そして頭蓋の砕ける嫌な感触が残った。

「おかえり、相棒。」

崩れ落ちたチンピラを踏みつけて、水谷は無邪気に微笑んだ。


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