22話

平常運転なら、薬の切れたジャンキーが無茶な要求でもしに来たのかと思うが、外にいるのは名越だった。

鼻血は止まっているようだが、砕けたアゴを無理やり納めたのか、右頬が赤黒く腫れ上がっている。

「ぶっ殺すぞコラああああ!」

近所迷惑だ、恥ずかしいからやめて欲しい。

と場違いな事を考えていると、名越の後ろからゾロゾロと人が集まってきた。

5〜6人か?

野次馬かと思ったが、それぞれ手に武器を持っている、木刀、木槌、ナイフと様々だ。


「はは、マジかよ。」

水谷が唸る。声のトーンは楽しそうだ。

「なあオッサン、あいつがどこの組の奴か知ってる?」

「いや、詳しくは。」

「森内会系村田組の若頭だ。セコい商売してる割に、結構偉いっぽいぜ。」

水谷が何を言いたいのか、俺にはよく分からなかった。

「あれと縁切るってのも結構やっかいだけど、どうする?」

名越が血走った目でこちらを睨み、鍵のかかった扉を蹴破ろうとしている、薬局では主流の自動ドアでなくてよかった。

「こっから先俺らに着いても、名越に追い回されるかも知れねぇし、俺ら売ったら、良くも悪くも今のままだ。」

「まさかこんな状況にしといて、名越を追い払う自信無いのか!?」

青山がいぶかり、吠える。

「いや、中学の同級生より、会ったばっかのチンピラに張る覚悟があるのかと思ってよ。」

一方の水谷はこともなげだ。

「この人数だぞ?いいのか?本気か?」

青山の顔がだんだん青ざめていく。残念ながら、ヤクザと関係を持って、縄張り争いに巻き込まれた時点で、彼は「詰み」の状態なのだ、少なくとも俺は水谷がやられたら、青山が裏切るつもりだった話をする。

「ほらそうなるよなぁ、どうしようかなぁあああ。」

口に出していたらしい。

青山は頭を抱えてしゃがみこんだ。

「まぁ、この町にいる限り手出しさせねぇことくらいは約束してやるよ。」

水谷は不敵に笑う。

「あ、僕ら置いて名越からも逃げるなら、書類と印鑑一式置いてってください。薬局は俺が引き継ぐんで。」

ふと思いついた事を、一瞬悩んで口にしてみた。混乱している今なら、乗ってくるかも知れない。

「は?」

案の定、青山はいよいよ混乱している。

「はははは、そりゃいい。ここ全部捨てて逃げるか?逃走資金は持ってるだろ?足とアジトは用意してやるぜ?この薬局よこすんなら、それでチャラだ。」

水谷がゲラゲラ笑い、青山は顔を赤と青に点滅させて唸っている、俺は無表情に、ガンガン蹴られる扉を見つめながら、中学時代の事を思い出していた。


あの頃も、俺は水谷に引きずられて、こんな風景を眺めていたっけ。


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