21話

名越を放置し、青山を連れ立って、俺たちは薬局まで戻った。


監視カメラの映像を数日振り返るだけで、青山と名越が、明らかに通常の取引でない薬の取引をしている様子がバッチリ写っていた。

入荷の伝票などもちろん無いので、この時点で欠格ものだが、内容が更に良くなかった。

青山は名越から、茶筒にジャラジャラと無造作に突っ込まれた薬や、老人のタンスからそのまま出てきたような、用法ごとに分包された薬を帯状にまとめて手渡されていた。

あとからそれを一つずつ仕分けて、新しいものと交換して名越に返したり、そのまま在庫にしたりして、それを再び別の患者に出しているのだ。

一方、まつ毛が伸びる副作用で美容に関心がある人に人気の目薬や、睡眠薬や抗不安薬はもちろん、人が殺せる量の血糖降下剤、果ては覚醒剤の原料に至るまで、実に様々な薬が、違法に名越の手に渡っていた。


「せっかく監視カメラに死角作ってんのに、油断しすぎじゃね?」

実際、問題が発覚しなければ監視カメラの内容まで見られることもないので、油断はあってもしかたがないのだろう。

「これを小銭でやってるって、青山さん相当ヤバいっすね。」

実際、違法な上に労力に全く見合ってない。

少なくとも、薬剤師2名が常駐しているような規模の薬局の経営者が手を出す必要のある商売ではないだろう。

「だから言ったろ?俺も被害者なんだよ。」

苦労の割に彼が金銭を受け取っている様子は一度も写っていない。

税金でまかなわれた薬を横流ししておいて被害者面とは、なかなか厚い面の皮だが、彼にとっても頭痛の種であったことには間違いあるまい。

「さて、こっからが交渉だ。お前、自分の薬局と免許のためにいくら払える?」

監視カメラの映像をコピーしながら、水谷は言う。俺は証拠になりそうな伝票と帳簿のコピーをとった。

青山は抵抗しなかった。

「逆に、いくら欲しいの?」

「言い値とは殊勝なこったな。」

「正直、名越くんと縁が切れるなら、いくらでも出すよ。払える額なら。」

青山の顔は、いつの間にか経営者のそれだった。

「あんた名越くんのこと殴ったんだし、二人仲良く俺から吸い上げるなんて考えてないんだろ。ここをこのまま、アコギしないで普通に続けさせてもらえるなら、毎月の利益から10%を収めるとかでもいい。手付金が必要なら300万円までなら即金で用意できる。」

渋チンだな、服だけ見ても彼の年収はそれではきかない。

「ほぉ、じゃあ清田の見立てでは、いくら取れる?」

口に出していたらしい。

続けて俺が金額を言おうとすると、突然ドンドンと薬局の扉が叩かれる音がした。


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