18話
「よろしくおねがいしまーす。」
東山が薬局に来た。
持ってきたのは目の前の医院の処方せんではなく、隣町の心療内科のものだった。
「やぁ、来たね。」
俺は問診票を差し出す。時間を外すように言ったので、相棒の薬剤師は在宅患者に薬の配達に行っていて、今は薬局に俺しかいない。
「ねぇ、今からここでする?」
問診票を取らずに、東山が俺に顔を近づける。
そのテの趣味がないこともあるが、俺は黙って上を指差す。
「監視カメラあるよ。」
「残念。」
そう言うと東山は問診票を受け取って書き始めた。
「あれ?」
受け取った処方せんの内容を入力しようとして、気がつく。
東山は、目の前の医院にも通院歴があり、うちにも記録が残っていた。最後の来局は3ヶ月前。俺と再開する1ヶ月ほど前だ。
「なぁ、東山、ここ来たことあるの?」
「うん、少し前までここ通ってたよ。」
「何で変えたん?」
「んー、なんとなく?」
東山ははぐらかしたが、理由は明白だった。
3ヶ月前まで、東山は2週間に1度、ここを訪れていた。
その都度1ヶ月分の処方を受け、記録には「定期処方、体調変化なし」と「医薬品紛失のため、自費」
の文字が交互に並んでいる。
『紛失』とあるが、恐らく彼女は1ヶ月分の薬を2週間で使い切っているのだ。
こういうオーバードーズが疑われる患者にこの内容を記載している薬局は相当問題がある。
そして通うのをやめた理由は明白だ。
厚生局に目をつけられ、処方を断られたのだろう、いくら自費でも、明らかに不適切な処方内容が継続すれば、見つかることがある。
住所なんかも、書いてもらっているが既に薬局で把握しているものと同じだし、処方内容に変更はないので、入力も準備も楽だった。
「お医者さんはなんか言ってた?」
「いつもどおりですねって。」
東山はヘラヘラとそう言う。
「飲む量減ってないの?」
「そんな事ないけど、なんかそのまま貰ったほうが良いのかなって。どうせ安いし。」
こういう患者は多い。
安い理由は、彼女が「自立支援制度」を受けていて、自己負担額の上限が決まっている上に自己負担が1割だからだ。
ジェネリックでない薬を、しっかり大量に、税金で入手しているのに、減らすべきだという努力を、患者も医師も怠っている。
「そんなに持ってても、もったいなくない?」
「んー、邪魔になったら捨てるから良いよ。」
税金の無駄遣いだ。
「知ったこっちゃないしー。」
東山が舌を出す。
口に出していたらしい。
はぁ、とため息を付いて薬を渡し、会計をする。
「今日はお店に来る?」
「ああ、行くよ。」
「じゃあ待ってる。アフターしようね。」
そう言うと東山は俺の頬にキスして帰っていった。
監視カメラが誰にも確認されないことを祈る。
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