14話
「で?その後どうよ。」
いつぞやと同じく、ファミレスでチンピラスタイルの水谷と会う。
今日はペラペラのスーツを着ていた、ちょっとチンピラの中でも偉い感じだ。
「まぁ、順調かな?」
俺の見ていないところではどうなのか知らないが、あの日から数日、東山は少なくとも、俺の前ではマルスを飲んでいない。
「そうか。俺が紹介した薬屋どう?」
「いいね。あれは十中八九やってるよ。」
「そうか、やっぱりな。」
そう言うと水谷はチンピラっぽく、粗野にチキンステーキを頬張る。
「俺のシマで勝手やるとどうなるか、思い知らせてやる。」
お、それっぽいな。
「うるせー。」
口に出していたらしい。
「しかしまぁ、時代だよねぇ。」
「何がよ。」
「いや、ヤクザもフリーランスでやる時代なのかと思って。」
「お前もフリーランスの薬剤師じゃねぇか。似たようなもんよ。」
「はいはい、字ヅラだけね。」
平日昼間のファミレスで酒を飲みながら、二人でゲラゲラと笑う。
買い物から研修まで、何事もスマホ1つで済ませてしまう味気ない生活を送る俺にとっては、俺と進路を違えてからの彼の武勇伝はなかなかの娯楽だった。
中学時代にボコボコにした高校生が上級生にいて、その人が同級生になり、後輩になった後、アングラ格闘家時代を支えるマネージャーになった話や、隣町の高校との縄張り争いに巻き込まれて、何故か両方の高校の不良グループと、水谷個人の三つ巴の戦いになった挙げ句「水谷抹殺」で両校が共闘したことで縄張り争いが終結した話など、ちょっとした不良漫画が出来そうな体験談を語ってくれたのだ。
特に、アングラ格闘場の賭場が摘発されて、ゲイだったコーチ兼トレーナーに「一緒にフィリピンに逃げよう」と言われ、葛藤の末に逃避行当日にマネージャーを身代わりにしてバックレた話は、なかなかの傑作だ。
彼らは現在も、フィリピンに潜伏しているらしい。
先日、仲睦まじい様子の絵葉書が届いたとか。
現在の彼の縄張りは、当時の彼のファンからの「引退祝い」だそうだ。
『カエデを芯に1町歩、水谷にスジ通すべし』
2年前に死んだ大物ヤクザの爺さんの遺言だとか。
「俺の盃はあの爺さんとの約束だ、他のヤクザは関係ない。」
そう言って彼は2年間、独力で自分のシマを維持している。
「今日は爺さんの月命日でよ。家は引き払ってるから、シマの外にある組事務所にしか仏壇がねぇ。めんどくせぇけど、約束だから線香あげに行ってくるわ。」
水谷はそう言うと伝票を持って立ち上がる。
「じゃ、引き続きよろしく。」
伝票をヒラヒラさせて、水谷が去っていった。去り際までもチンピラだった。
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