11話

セックスに対する価値観は、人それぞれだろう、愛情の極限、一方的な蹂躙、スポーツだという者もいる。

「清田くんが一番イイ。」

誰にでもそう言っているんだろう。

「そんな事ないよ。」

口に出していたらしい。

「そういう清田くんはどうなの?」

「俺は相手の満足が自分の満足に直結するかな。」

「なにそれ。」

「相手が気持ちよさそうにしてる姿が一番興奮する。」

しかし、仕事と割り切ってするセックスで満足出来る人間などいないのだから、そもそも俺のような性癖の人間は、性産業を楽しめない。

「なんか矛盾してない?」

またしても口に出していたらしい。

その通りだが、俺の目的はそもそもセックスではない。

「ああ、俺は女買うつもりで東山に声かけたんじゃないからね。」

「え?」

「金なら俺が払うからさ、とりあえず俺以外の客取るのやめてよ。」

「わかんない、なんかちょっとわかんない。」

少し取り乱した様子の俺は東山の肩を抱いた。

「まぁ、ゆっくり考えてよ。急がないから。」

泣いているのか笑っているのか、よくわからない複雑な表情でうんうん唸りながら俺にすがりつく東山を抱きながら、俺は疲れに負けて眠った。

本当にしんどいのは、これからだ。


翌朝早く、ホテルを出た後コンビニに寄り、朝食を調達して、今度こそ東山の家に上がり込む。

朝食は3人分、次のターゲットはあかねだ。


東山の部屋は、意外と片付いている。

食器は洗われ、掃除も行き届いているとは言わないまでも、努力の跡が見える。

俺はバターとベーコンの油で目玉焼きを焼き、トーストを作って、コンポタスープを温める。

コンビニサラダもきちんと皿に出せば、それなりに見栄える。

東山にはあえて座っていてもらった。程なくあかねが起きてくる。

「おはよう。あかねちゃん。」

挨拶は俺から。

「おはようございます。」

あかねの目は冷ややかだった。

自分に取り入ろうとする人間の行動として、これほどあからさまなものはない。

彼女にとっては使い尽くされたネタで、普通なら長続きしないことを知っているのだろう。

上等だ、薬剤師になれる人間の継続力を教えてやる。

「あかね、ちゃんと挨拶して。」

東山が不機嫌に言う。

「いやいや、充分じゃんよ。」

そう言って小さなテーブルに並びきれない朝食を用意し、俺は立って台所で食う。

あかねは俺と東山を見比べる。

俺はあかねに、座るように促した。

「私、いつもは朝ごはん食べないんだけど、今日はなんだか、食べられる。」

これはあかねではなく、東山の言葉だ。

「朝飯をうまく食うコツは、なるべく作りたてを食うことだよ。朝食は夕食より冷めるのが早い。」

「なるほど。」

「まぁ、馬車ウマやってた頃は俺も栄養剤で生活してたけどね。」

それで体を壊した同期を見て、俺は金をかけてでも、なるべく温かい朝食を摂るように変えた。

精神衛生の整え方は、薬剤師としての教養でなく、体感で知っている。


あえて和やかであったり、無理に話題を作らず、黙々と朝食を摂る。一番ソワソワしているのは東山だった。

食べ終わったあかねが、食器をもって流しのところに来る。

「もらおう。」

俺は自分の分と併せて、食器を洗った。

「あれ?洗剤無いの?」

調理で台所に立っている時は気が付かなかったが、食器洗い用の洗剤が切れていた。見た目から、空の容器は随分前からそこにあるようだ。

この家では普段、どうやって皿を洗っているのだろう。

「ごめんなさい。」

あかねが謝る。

「うん、じゃあ買ってくるから、お皿そのまま置いといて、学校行く準備してきな。」

おれは財布を持って家から出ようとした。

「ほんとに良いの?」

あかねが上目遣いにこちらを見てつぶやく。

驚くほど東山にそっくりで、思わず頭をなでそうになるが、先日の怯えた表情を思い出して踏みとどまる。

「いいよ、すぐ戻る。遅くなったら、学校行っててね。」

俺はコンビニに引き返して、すぐに東山の家に戻った。

「やっぱり。」

そこには洗われた食器と、全裸で待つ東山の姿があった。

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