10話

女を口説くのに必要なものは、俺の知る限り3つ。

きっかけ

清潔感

きっかけは同窓会。

清潔感は、最低限の身なりくらいは身につけている。

金はそれなりに持っているが、いくら国家資格を持っていても、無職では効果的ではない。


故に、俺は不本意ながらアルバイトを始めた。

条件は心療内科近くで、週2〜3日から働ける調剤専門の薬局。


幸いすぐに見つかった。面接も即パス。

まぁ、当然だろう。ちゃんとを薬剤師免許を持っていて、現場経験がある20代男性で、エージェントを通さなかったので、人材紹介会社にかかるマージンも必要ない。

なので、たとえバックレられても経営者は損をしない。


ちなみに、人材紹介会社を通した場合、手数料は想定年収の約10%、俺の場合はこの条件でも年収300万円を超えるから、手数料は約30万円。

手土産としては充分だろう。実際、経営者には感謝された。


「へー、就職おめでとう。」

面接の3日後からの勤務初日を終えた俺は、その足で「カエデ」に向かった。

もちろん、客引き中の東山と「同伴」だ。

「アルバイトだけどねー。」

「それでも偉いよ。」

実際、慣れない初日ということもあり、今日はなかなか大変だった。

今日も東山は胸を寄せて谷間を作りながら俺に水割りを作る。

どうやらこれは誘っているのではなく、彼女の癖のようなものらしい。

「うまいな。」

約2ヶ月ぶりの仕事の疲れを酒で洗い流す。

「よかった。でも、程々にね。」

そう言った東山の横顔は、あの頃よりいくらか疲れていたが、変わらず魅力的だった。

「明日はフリーだから、大丈夫。」

「もう、折角の休みが二日酔いで台無しになるわよ?」

「二日酔いが怖くなくなる薬知ってるから大丈夫。」

「薬剤師って最強じゃね?」

「ふっふっふっ、褒めたまえ褒めたまえ。」

カエデさんが相手をしているおじさんが聞き耳を立てているので、後でカエデさんにも教えてあげよう。


「今日も3万でいい?」

周りに聞こえないように、小さく耳打ちする。

東山は驚いた顔でこちらに向き直った。

「閉店まで待ったほうが良い?」

俺はなるべく自然に、それが「なんでもないこと」のように言うように努めた。

「うん、あんまり無理は言えないかも。」

「じゃあ、一度帰って風呂入って待ってるから、アガったら連絡して。」

東山は少し迷った顔をしたが、やがて「うん。」と小さく返事をした。

無闇に高いチョコレートを肴に追加で一杯注文して、飲み終わったらそそくさと帰る。

送り出す時「またきてねー」とハグをしてくる東山に「じゃあ、あとで」と耳打ちするのも忘れない。

そうして午前1時をまわった頃、東山から「おしごとおわった」とハートの絵文字付きの連絡が来た。

かくして俺は再び、東山の家に上がり込むことに成功した。

と言っても今はラブホテルだが。

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