第3話
「はぁ?清田お前無職なの?よく来れたなぁ。」
出身中学の3年3組同窓会。
俺は張り切って定時で行ったが、既にグループが出来上がっていた。
どうやら俺の知らないところで0次会が行われていたらしい。
出席者名簿に「清田 翔平」と名前を書いて横に職業を書く欄があったので、正直に無職と書いた。
席にすらついてないうちの開口一番から、俺は既に帰りたかった。
名前も覚えていない幹事はクラスでも陽キャだったやつで、縦ストライプのスーツに何かギラギラしたでっかい時計を付けている、特に興味がなくて名簿を見なかったが、後で聞くと大手証券会社の営業マンで、成績がいいらしい。
名簿に書いたのと同じ名前が、みんなの胸についているが、コイツは付けていない。
よっぽど良いスーツなんだろう。
「4年で会社やめるとか、ちょっと早過ぎでしょ〜。」
取り巻きの女の一人が蔑んだ目で俺を見る。
「いや、大学に6年行ってたから、2年。」
我ながら、要らぬ訂正をしたが、こういう事が気になる性分なのだ、仕方がない。
「え〜、留年〜?最悪じゃん。」
大学に6年いたと言って「医学部」だと思われないあたり、俺は完全にロックオンからハズレているらしい。
「あ、うちの彼氏も大学院行ってたから、6年だったよ?清田くんも?」
別の子がフォローをくれる、嬉しくはないが。
「ああ、まぁ。」
薬学部も6年制だという話をいちいち説明することは、既に面倒くさくなっていたので、もうしない。
「大学院卒で2年で辞めるとか、マジで意味ねぇな、まぁ、頑張れば?」
ここで薬剤師免許をひけらかしても、年収ではおそらくコイツに勝てていないし、下手をすれば営業のタネにされてしまう。触らぬが吉、だ。
「中学いた頃から、『自分はイケてる』って思ってる感じ丸出しだったもんな。」
実際、そこそこモテたのだろうが、更に輪をかけている。参加してる女の半分は、あいつにしなだれかかっている。
仕事を続けていれば、おこぼれくらいはあっただろうか。
「ふふふ、大変だったわね。」
敏腕営業マンから離れると、たまたま向かいに座った女が声をかけてくれる。穏やかな雰囲気で小綺麗な格好、ちょっと太ったが、昔から人の世話を焼くのが好きな優しくて可愛い子だった。
「狭山よ、覚えてる?」
すっと胸元の名札を見せる。
「もちろん。」
狭山は掃除当番が同じだったのでよく覚えている。班で真面目に掃除するのが俺たち二人だけだったからだ。あの頃のままの甲斐甲斐しさで、酒を注ぎ合い、ポツポツと近況話をする。薬剤師であることは、相変わらず伏せた。
普段患者で慣れている世間話スキルでしのいだが、狭山の名前は知っていても、それ程仲が良かったわけでもなく、思い出話はすぐに尽きた。
「仕事、紹介しようか?」
会話に困って、そろそろ自分が薬剤師だという話でもしようかと思った頃、少ない話の切れ目を見て、狭山が言ってくる。
「へぇ、どんなの?」
国家資格のおかげで、選り好みしなければ就職にはまず困らないが、この際、薬剤師の仕事以外というのも、視野に入れても良いのかも知れない。
「怪しいやつじゃないのよ。」
その言葉から入る仕事が怪しくないはずがない、俺は反射的に身構えた。
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