第4話 カウントダウン進む
「お嬢様、参考になる本を持ってきましたよ!」
ユフィの行動に危機感を覚えてた頃、シンフォが貴重なお給金をはたいて本を購入してきてくれた。
私室に駆け込んできた彼は、町で買ったという本を手にしている。
私にわざわざ報告してきたのは、無名の作家が書いた本だった。
「「海賊王女と王子の婚約」という本です。興味深いのでぜひ読んで下さい」
恋愛小説のようだ。
今まで聞いた事が無かったが、彼は読書が趣味だったのだろうか。
不思議に思って問えば、彼は首を振る。
「違いますよ、この内容が現状打破のヒントになるかもと思って購入したんです。神様に愛された海賊王女が、時を戻す力を使うという設定があったから」
「それは本当?」
なるほど、自分達の状況を変えるヒントを得るために、購入したらしい。
その日から二人で一緒に読書するのが日課になった。
時を戻す力を手に入れた海賊王女は、人質に取った王子と共に海賊船で冒険する。
しかし、王子はいつも海獣にやられたり、別の海賊にやられたり、病にやられたりして死んでしまうので、王女が時を戻して助けるのだ。
王女の活躍は、次第に王子の心を鷲掴みにしてしまう。そして最後、王子は国を捨てて王女と一緒になったらしい。
この世の中では、男性が活躍して、女性がその背中を支えるという価値観が一般的である。なので世情を考えると、この本はちょっと変わっていた。
けれど、シンフォと同じ物語の世界を共有するのは、楽しかった。
大した打開策はなかったので、ハズレだったが、シンフォがわざわざ知らせてくれたのでそれは言わないでおいた。
妹を何とかしなければとばかり考えて焦っていたが、良い気分転換にはなった。
思えばシンフォにはいつもお世話になっていた。
一周目の世界でも、彼が支配されるのは一番最後だったから。
『お嬢様っ、私は貴方の事が』
まともだった彼の最後の言葉が脳裏に届いたけれど、それに返事ができなかったのが、心残りだ。
状況は少しづつ進行していく。
妹のユフィは社交界のお友達を加護の餌食にしているようだった。
前回は、友人なんてものは支配しなかったのに。
もしかして警戒されているのだろうか。
屋敷で顔を合わせるときも、あまり話しかけられなくなった。
やり直してからずっと平静を装っていたが、知らない間にピリピリしていたのかもしれない。
そのおかげで身内に手を出されるのが遅れたのは、幸い。と思ってもいいのだろうか。
予想できない方向に状況が進んでいくのは少し怖い。
そんな中、学校へ入学をすることになった。
屋敷の中の家庭教師だけでは学べない事を学ぶために、十代半ばになった貴族のお嬢様、お坊ちゃまは学校へ通う事になっていた。
その際私は、交友が続いていたリリヤと同じクラスになった。
虐められていた昔と比べてリリヤはすっかり明るくなっていて、多くの友人もできているようだった。
学校に通う貴族達は使用人を連れてきてもよいという事になっているので、シンフォも一緒に通う事になった。
なので、毎日それなりに充実している。
二回目の学園生活だけれど、思春期の少年少女達は本当にすこし違う行動をとるだけで、大きな変化を見せてくれたから、何度も驚かされた。
リリヤにも金髪の少年が使用人としてついているらしい。
身の回りがにぎやかだ。
ユフィは一年違いで入学するため、まだ学校には来ない。
だからその前に、図書館を使って調べ物をしようという事になった。
この学校の敷地内には、大きな図書館がある。
町の図書館と施設を共にしているため、その規模はかなり大きい。
これまでもその図書館で色々な調べ物をしてきたが、距離が近づいた分、もっと気軽にしっかりと調べる事ができるようになるだろう。
図書館では背が高い棚が多いので、そういう時は私より身長のあるシンフォに取ってもらう。
やり直した時と比べると、彼の姿はずいぶんと未来の彼に近づいた。
私が死ぬとなった時の、シンフォの身長にもう届きそうだ。
「そういえば、今まで聞く勇気がなかったのですが、未来の私はやはり操られてお嬢様の敵に?」
「ええ」
「ああ、そうですか。面目ない」
「貴方のせいじゃないわ。加護の力は強いんだもの。それに別の世界の事なんだし」
脳裏に浮かんできたのは、こちらに謝りながら、私を拘束するシンフォの姿だ。
人の意思を無視していいように操るユフィの力はやはり、脅威的なのだと改めて思った。
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