“鋼纏”対ケンタウロス

 エイリークは敵の攻撃に対し、装甲の一部を厚くして防御した。攻撃とは、石くれである。ドレイクの間合いは槍の範囲だけではない。テックで強化した槍が石くれを弾き、砲のような威力で襲い来る。

「こいつ、かなりできるな」

 ケンタウロスの馬身と人間の二脚。馬鹿正直に足を止めて打ち合うなど無意味だ。圧倒的な速度を生かして間合いを取りつつの一方的な攻撃。時折機関銃が狙いを定めるものの、ドリフトターンを駆使した縦横無尽の機動力には銃弾すらも追いつかない。

「せめて膝が万全なら」

 傭兵引退の契機となった膝は今になって尚、時折鈍い痛みをもたらす。重量級の鎧で戦場を駆け回るエイリークにとっては致命傷に近い。

「我はここで討ち死にしよう。敗軍を率いて、おめおめと帰ることなどできん。だが、真の武士(もののふ)と見込んだ貴様の首は、冥途の土産に頂戴する!」

 戦車を一足で飛び越えたドレイクが気炎を上げた。あれに追い付き、この金棒で打ち合う術などあるのか。

「村長!」

 声がした方を向くと、魁がいた。転がされた戦車の残骸から、黒煙を吐く板のようなものを作り出している。

「寄越せ!」

 重厚な鉄の板は自ら走り出した。ディーゼルエンジン付きのボードに飛び乗ると、暴力的な慣性に振り落とされそうになる。“鋼纏”のスキルで足底を固定。こちらも人馬一体の構えを取った。

「面妖な!」

 ボードの加速は馬などとは比較にならない。そして、油圧シリンダーを利用した車輪は、重心移動を機敏に感知し、思い通りの旋回を実現する。一定の距離を保とうとするドレイクに先回りし、金棒を一直線に構えた。こうなれば正面より打ち合うより何も無い。

 土煙を上げるボードとケンタウロスが、速度と質量の存分に乗った武器を交えた。エイリークの金棒は、その打突部位から折れる。

「ふ」

 にやりと笑ったドレイクの槍に異変が起こった。大ぶりな紡錘の突撃槍は、敵を嘲るような獅子面の鎧に変形する。

「我の槍が!」

 これでは最早、槍としての用途に使えない。それでも自らに課した誇りからか、ドレイクが戦意を失うということは無かった。ドリフトターン。馬身の小回りはボードよりも速い。槍が無ければ蹴り殺すのみだ。

 エイリークはボードの先を浮かせ、ウィリー状態から宙に飛んだ。ムーンサルトで身を捻り、敵の頭上を抜ける。

 一瞬の交差。ドレイクの足はつんのめり、勢いのまま前方に二回転。地に倒れ伏す。

「これは……!」

 その身を覆う鎧が歪な脚甲と化し、四本足の動きを妨げている。エイリークはボードの固定を外すと、倒れた敵の胸に乗り、金棒を振りかぶった。

「“鋼纏”を見たら鉄を捨てろ。十年前までは常識だったぜ」

「……見事」

 鉄兜に向け、金棒が振り下ろされる。ケンタウロスは一瞬痙攣し、二度目の打撃を無抵抗で受け入れた。鈍器を愛用しているのは、スキルで動きを止めた相手を鎧ごと殺すためだ。兜の隙間から鮮血が噴出。数回続けると、ドレイクの鼓動はついに尽きた。

 挟撃を振り切った敵が敗走を終えた。生き残りは足の速い連中だ。馬を使っても、追撃戦は上手くいかないだろう。

 戦争は終わった。とりあえず、現段階では。

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