6話 初めてのプロット
私が創作を始めたきっかけは、歴代受賞者インタビューの通り、高校に入学した時に母に文芸部への入部を勧められたからです。軽音部との兼部と言うこともあり、当初は文芸部の活動に積極的ではありませんでした。
ですが、部誌で作品を発表すると、上級生や先生方などが私の作品を気に入ってくれて、廊下ですれ違いざまに「面白かった」と声をかけてもらえたりもして、1年生が終わる頃には、徐々に創作熱のようなものが芽生え始めました。
私って、意外と「書ける」のかもしれない。
そう思った2年生の夏、私は1年生の時に中途で放り投げた『残夏』に再挑戦しようと思い立ちました。
再挑戦は、反省からスタートしました。
自分は何故『残夏』を書き上げることが出来なかったのか? それは、物語の滑り出しに失敗したからです。
実はそれまでの私は出たとこ勝負と言いますか、その場の思いつきで即興で物語を書いていました。そのせいで『残夏』は立花梢の死の説明や告別式のシーンがダラダラと続き、いつまで経っても肝心の物語が動き出しません。その状況に私自身が辟易してしまい、結局、完結させることなく、執筆を中断してしまいました。
再挑戦にあたり、私はまずプロットを組み立てるところから開始しました。そして手始めとして、Wordの新規ファイルに、次のようなメモを
【例1】
①起
②承
③転
④転
⑤結
③と④がどちらも「転」になっていますが、これはミスではありません。
なんとなく……なのですが、当時の私は、クライマックスには「ポジディブ」と「ネガティブ」があり、物語にはその両方ともあった方がより盛り上がるという考えを持っていました。例えば「持ち上げて落とす」という表現がありますが、主人公に一旦幸福の絶頂を味合わせた後に悲劇的な展開を持って来た方が、その後の悲劇がより際立つというような。それは逆も然りです。
2回の部誌発行の経験から読者の存在を強く意識するようになった私は、どうせ書くなら「面白かった」と言ってもらえるものを書きたいと考え、新生『残夏』にも2箇所の山場を用意することにしたのでした。
次に私は、前述のメモの各項目に続けて、「読者に感じて欲しい事」を次のように書き留めました。
【例2】
①起……興味を持たせたい
②承……惹きつけたい
③転……ときめかせたい
④転……不安にさせたい
⑤結……唖然とさせたい
①~③は、私が普段から小説や漫画に期待していること(惹きつけられたい/ときめきたい)でもあります。そして④と⑤は、『残夏』に対する「理想的な読者の反応」です。そして私はこの「読者の感情の盛り上がりや落ち込み」をグラフ化して、この作品が完成するまでの指針としました。
ただ、誤解のないように申し添えておきたいのですが、私はプロの作家ではありませんし、どこかで創作を学んだ経験もありません。ですので、今回のお話は、あくまでも私が初めてプロットを組み立てた時の思い出話しです。このプロットの立て方が皆さんの創作のお役に立てるかは、私にはわかりかねるので、参考程度にお読みください。
とは言え私は『残夏』を書いた時から4年経った今でも、プロットを立てる時には「読者に何をどう感じて欲しいのか」ということに軸足を置くことにしています。
さて、話を元に戻しましょう。
前述の①〜⑤の項目を書いた後、私はそれぞれの項目に続いて(→)物語のおおよその流れを付け加えました。
【例3】
①起……興味を持たせたい
→亡くなったクラスメイトの焼香に行きサマードレスの美女を見かける
②承……惹きつけたい
→体育祭の準備にまつわるアレコレ&サマードレスの美女ナツコとの再会
③転……ときめかせたい
→花火大会でナツコと再会&ナツコのアパートで一晩過ごす
④転……不安にさせたい
→忽然と消えたナツコとアパートの部屋
⑤結……唖然とさせたい
→ナツコの正体とあの日の真相
やっとおおよその流れが決まりました。
とは言え、これではまだ書き始めるわけにはいきません。私は次に①〜⑤の各項目を「起承転結」に乗っ取って分割し、執筆のテンプレートとしました。
【例4】
①起……興味を持たせたい
→亡くなったクラスメイトの焼香に行きサマードレスの美女を見かける
・起……
・承……
・転……
・結……
②承……惹きつけたい
→体育祭の準備にまつわるアレコレ&サマードレスの美女ナツコとの再会
・起……
・承……
・転……
・結……
③転……ときめかせたい
→花火大会でナツコと再会&ナツコのアパートで一晩過ごす
・起……
・承……
・転……
・結……
④転……不安にさせたい
→忽然と消えたナツコとアパートの部屋
・起……
・承……
・転……
・結……
⑤結……唖然とさせたい
→ナツコの正体とあの日の真相
・起……
・承……
・転……
・結……
以上が、私が『残夏』を書き上げた時に立てたプロットです。
さあ、やっと全体の骨組みが決まりました。あとは頭の中にある映像を各項目に割り振っていくだけです。『残夏』は部誌に掲載する予定だったので、文字数を16,000字前後に収める必要がありましたが、そのおかげで①〜⑤は各3,200文字程度でまとめるという目安が出来ました。
そしてその後の執筆では、この目安がとても役に立ってくれました。筆が止まってしまった時には自分に発破を掛け、筆が乗って脱線しがちな時は軌道を修正し、各項目をひとつの物語として完結させながら書き進むことで、全体像を完成させることができたからです。
以上が、私が初めてプロットを組み立てた時の経緯です。
なんだか、わざわざ改めて説明するまでもない、当たり前の手法のような気もしますが、兎にも角にも私は一度は頓挫した『残夏』を書き上げ、そして『残夏』は結果的に読売新聞社賞を受賞し、「練った構成」という講評を頂くことができました。
プロットを作る作業は、一見、回り道に見えることがあります。
思いついた物語を、誰かが書いてしまわないうちに早く仕上げて発表したい! そんなはやる気持ちを押し殺さなければならない辛さもあるでしょう。
それでも最初にしっかり骨組みを組んでしまえば、後はそれに沿って、各話2500~3000字程度の物語を書くだけです。労力で言えば、学校の課題でレポートを1つずつこなしていくようなものですから、「小説を書く」というハードルは、ぐっと下がります。
小説を書いてみたいけれど、どう書いたら良いかわからないと言う方は、是非一度、プロット作りから始めることをお勧めします。
***
さて、以上が、高校2年の時に初めてプロットを書いた時の経験談ですが、ここから先は、当時の反省になります。
『残夏』は、カクヨム甲子園では読売新聞社賞を受賞できましたので、作品としては一応成功した部類に入るかもしれません。ですが、「物語の面白さ」という観点ではどうでしょう? アクセス数を見て頂ければお判り頂けると思いますが、『残夏』の場合、1話を読んでくれた人の半分くらいしか、2話まで読み進めてくれていないのです。更に、各話を比較してみると、私自身が『残夏』のクライマックスだと考えていた5話と6話のPV数が他の回に比べて低いという問題が生じています。これは読者がクライマックスの直前に読むのを止めてしまっていると言うことです。
それを踏まえて、今後私がプロットを組み立て直すとしたら、それは次のようなものになるだろうと思います。
【例5】
①起……興味を持たせたい
→亡くなったクラスメイトの焼香に行きサマードレスの美女を見かける
・起……
・承……
・引……★
②承……惹きつけたい
→体育祭の準備にまつわるアレコレ&サマードレスの美女ナツコとの再会
・起……
・承……
・転……
・引……★
③転……ときめかせたい
→花火大会でナツコと再会&ナツコのアパートで一晩過ごす
・起……
・承……
・転……
・引……★
④転……不安にさせたい
→忽然と消えたナツコとアパートの部屋
・起……
・承……
・転……
・引……★
⑤結……唖然とさせたい
→ナツコの正体とあの日の真相
・起……
・承……
・転……
・結……
「引」とは「引き」で、次のお話を読まずにいられなくなるような仕掛けのことです。
私が最初に作ったプロットでは、各話を一律に「起承転結」で構成した為に、其々のエピソードは、其々の回でケリがついてしまっていました。それが読者に「次はどうなるの?」という興味を抱かせることに失敗し、物語の世界に引き留めておくことが出来なかった原因なのではないかと思います。
正直言うと、「引き」を組み込んだプロットなんて聞いたことはありません。そんなことをいちいちプロットで指定しなくても、無意識に「引き」のある文章を書いている「引きの名手」は沢山いますし、「引き」は寧ろ枠組みで規定するよりは、執筆者本人のセンスに委ねられるべき問題なのではないかと思います。
それでも、私のように「物語を小さくまとめてしまいがちな素人作家」は、常にこのことを意識し続ける為に、一種のスキームとして組み込んでおいた方が良いのではないでしょうか?
最後にもう一度。
私はプロ作家ではないので、私のプロットの作り方は、戯言の一種かもしれません。私の妄言を真に受けるよりも、プロの作家さんの手による創作の指南本を手に取った方がずっと有意義です。
それでも、ひとつだけお伝えしたいことがあるのです。
それは「自分が作者としてどう書きたいかではなく、読者にどのように感じて欲しいかを大切にしてほしい」ということです。これは、読者としての私のリクエストです。ですので、この点だけは是非、心の片隅にでも置いていただければと思います。
「読者を意識する」という習慣が、あなたの書く物語に、より良い結果をもたらしてくれることを、陰ながらお祈りしています。
次の更新(2021/05/02/10:02)ではいよいよ、カクヨム甲子園2019に応募した時のお話をさせて頂こうと思います。
(2021/05/01/02:21 記)
(2021/05/08/09:53 改稿)
(2021/07/14/14:35 改稿)
(2022/08/31/07:30 改稿)
(2023/09/17/22:46 修正)
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