5章 戦火への凪 07
「……俺にやってもらう事ってこれですかぃ」
カザルの天才的な作戦とやらを聞き、最初に反応したのはロンベルだ。
「うむ、お前は魔術に精通しているようだからな。出来んとは言わせんぞ」
「いやまぁ、確かにこの中じゃ俺しか出来ないとは思いますがね…この規模の刻印なんて組んだことねぇですよ」
そう言って頭を抱えるロンベル。
魔術とは、術式によってマナを様々な状態に変化させる技術の総称を言う。
そして魔道具とは、本来発動者本人が組まなくてはならない術式を事前に物質に刻印することで、術式に関する知識の無いものであっても魔術の行使を可能とする道具のことだ。
その扱いやすさによって、発明以来様々な魔道具が作成されて来たが、今なお改善することの出来ない大きな欠点がある。それが、
「魔道具技師として言わせてもらうぞ。理論的には確かに可能だが、小さな魔道具でさえ使い続ければ刻印が焼け切れるんだ。この出力では刻印が耐えきれん。使えて1,2回だ」
刻印の耐久性だ。
魔道具技師として、マギナギアの登場以前から魔道具に関わってきたこの道何十年というダニーが言うのだ、それは間違いないのだろう。
元来の術式は、空間などに展開し魔術を行使した段階で解放されるためそもそもが使い捨てだ。
先日の山間部での戦闘の際、ロンベルが連続して発動出来なかったのはこのためでもある。
では何故使い捨てなのかといえば、マナが術式を通過し変化する際に発生する力に、術式が耐えきれないからだ。
勿論それは、刻印にも言える。
照明の術式の様に出力が極小さいものであれば長期の使用も可能だが、それも限界がある。
そうした際に刻印を刻み直すのがダニー達魔道具技師の仕事でもあるのだ。
「それでも牽制にはなるでしょうが、決定力のない牽制はいずれ露顕します」
「むむむ」
ダニーの言葉を受けエドワードが冷静に判断し、
「切れない剣を振り回されても怖くないッスからねぇ」
「ぐむむむむ」
タチアナが同調すれば、
「やはりラーンへの買付は中止すべきでしょう」
サリアがそう判断する。
と、それを聞いていたこの男が爆発した。
「だーーーーー!!!俺様の天才的な作戦に文句ばかり言いおって!出来ない理由よりも出来る方法を考える奴はおらんのか!」
バンバン、とテーブルを叩いて声を荒げるカザルの声に応えるかのように、スッと手を上げる人物が居た。
「あー、アタシいい案思いつたかも」
「うむ!いいぞベルベッタちゃん、どんどん言うのだ!」
概ね反対意見が広がる中での発案者に思わず体を乗り出すカザルに、一瞬体を仰け反らせたあとに小さく咳払い。そして口を開く。
「やろうとしてること自体はマギナギアで普通にやってることなわけサ。問題なのはやっぱり刻印部サね。なら、刻印部を取り外し出来るようにして、焼け切れた刻印部は都度交換していけばいいんじゃないのサ」
「……なるほど、刻印分を使い捨てるということか。その発想は無かったがそれなら実現性は高い」
ベルベッタの説明に頷くのはダニーだ。
彼の仕事は魔道具を作る事だが、その職務には刻印分の修復も加わる。
焼け切れた刻印は再度刻み直すのが一般的であり当然、彼もその作業に従事している。
刻印分そのものを使い捨てるという考えに至らないのも致し方ないだろう。
だが、その案に慌てた様子で待ったをかける者もいた。
「いやいやちょっと待ってくださいって。その刻印部、作るの俺なんですけど?」
「フン、考えたなベルベッタ。ならば基盤は俺たちに任せろ。とびきり頑丈に仕上げてやる」
そんなロンベルの言い分が聞こえなかったのか、はたまた聞こえなかったフリなのか、アレグレーが自らの二の腕をパンと叩きながら笑みを浮かべる。
「そんなに何回も使える程作れねぇですよ」
「ロンベル、いくつ作れるんだ?」
そう問いかけるエドワードに至っては完全にロンベルの意見は無視しているのだろう。
「大量に作れる前提で話を進めねぇで欲しいんだが……」
もはやこの流れは変えられないのだろうと、カクン、と首を項垂れたままのロンベル。
一般的な小型魔道具の刻印であればそれ程時間は掛からないだろうが、今回は規模が規模である。
しかし、そんな弱音をこの男がそのまま受け入れるはずがない
「開戦までに最低でも30は作れ」
「旦那ぁ、無茶言わないでくれますかぃ?ただでさえこんな刻印組んだ事ないんですぜ。刻印を組み上げるのだけでも1日は掛かりますって」
刻印を組み上げるのにも時間が掛かるというのであれば、日に5個は作る必要があるということになる。ロンベルの悲観した表情に、現実的に日に5個というのは無理があるのは誰しもが理解したようだ。。
特にサリアを始めとした戦闘経験の浅い面々は、そんな無茶を言うカザルには多少の不快感を抱いているものも居るだろう。
一方で軍歴もあるタチアナとエドワードは無理であることは把握しつつも、しかしそれだけの数を用意しなければならないというカザルの発言も理解出来ていた。
ある程度の数を用意できなければ、ベルベッタの提案した方法であっても一度の使い切りと大差が無い。有効的に使うのであれば、やはり何度か使用出来なければならない。
それ故か、どことなくロンベルへと憐れみの視線を向けていた。これは寝ずに作る事になりそうだな、という予想の元に。
そんな2つ視線が混じり合う中、ダニーが呆れた声を上げる。
「おいおい、魔道具の本職を忘れないでもらいたいんだが?」
「ダニーも作れるのですか?」
サリアの声に得意げな顔で腕を組む。
「用途を考えれば複雑な刻印になる。流石にその規模の刻印を組むのは俺らには出来ないが、完成品を見せてもらえれば複製はできる。魔道具ギルドを総動員すれば…そうだな、日に4,5個程度は作れるだろう」
「そうなると……」
「なんとか30程度は作れそうですね」
フレアとサリアが互いに視線を向け合うと、それに満足そうにカザルが頷き立ち上がる。
「防衛準備、開始だ!」
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