4章 導火線 06

 サリアがやってきた後、タチアナ達4人を含む8人全員が卓に着き、あれやこれやと情報の共有が行われた。

 タチアナ達からはティア事ネイフェルティアの状況と野盗の顛末、そしてブラホーンが託した策について。

 サリア達からは街の状況と組織についての詳細。そして今後の行動方針などについて。

 お互いに認知していなかった情報があればそれぞれすり合わせを行い、気づけば魔導ランプの明かりが燃料のマナストーン不足で薄暗くなっていた。

一通りの情報共有が終わり、それぞれがふぅと一息ついたタイミングでロンベルが軽口を叩く。


「しかし、サリア嬢がこの組織を立ち上げていたとは、驚きですねぇ」

「私からすればネイフェルティア様と会われていたという方が驚きです」


 そう答えるサリアは齢二十中頃といったところだろう。

 カザルが無遠慮にジロジロと眺め続けている顔立ちにはまだ幼さが残るものの、その立ち振舞は流石領主の娘というべきか。

 年齢的には一回りは上のロンベルにも怖気づく様子はない。


「でもなんでサリアさんがレジスタンスなんて立ち上げたんスか?武力的な反抗は反対してたっスよね?」

「街のバカ共が勝手に反抗しようとしていたからね。暴走されるくらいなら組織作ってコントロールしたほうがマシってなもんさ」


 タチアナの質問に答えたのはサリアではなくフレアだ。

 話によれば、立ち上げ自体は裏でサリアが動いていたようだが、形だけとはいえ領主の娘がレジスタンスを率いる存在となってしまえば、血気盛んな過激組が後ろ盾を得たとして暴れだしてしまうかもしれない、という懸念があった。。

そこで、困り果てたサリアを見かねたフレアがリーダーという立場に就くことになったようだ。

何でも、フレアの祖母とサリアの祖父が血縁だったため昔から付き合いがあったのだとか。


「そんな訳だから、タチアナの事もサリアから聞いてたって訳さ」

「なるほど、納得ッス」


 定期的に物資を提供してくれていたサリアとはもちろん顔見知りの仲だ。

 すると、その話を聞いていたエドワードが、ハッとした表情を浮かべた。


「もしかして、合言葉の『山猫は胡桃を食べない』というのは…」

「ふふっ、そうです。タチアナの事ですよ」


 エドワードからの疑問に思い出すように笑いながらサリアが答える。

 当の本人はなんとも居心地が悪そうに顔をしかめていた。


「えぇ……私の事だったんスか?」

「だって隊長、胡桃嫌いじゃないですかい」

「う、そ、そうなんスけど……山猫……なんスか?」

「フハハ、タチアナちゃんにピッタリではないか」


 隣に座るカザルがバンバン、と背中を叩きながら笑い飛ばすと、タチアナの不機嫌そうな顔からは諦めの色とともにため息が出るのだった。

 ひとしきり笑い合うと、さて、と前置きをつけてフレアが話出す。


「タチアナの話じゃぁもう野盗は出ないって事なんだろうけど、確証はあるのかい?」

「確証は無いッスけど、少なくともマギナギアを持つ様な奴は出ないッス。暫くは」


 トーンを落としたフレアの口調に合わせ、タチアナも神妙な顔つきでそれに答える。


「暫く、というのは?」

「えっ……と」


 チラリ、とロンベルを見やる。その問に今答えてしまっても良いのかと、そう確認しているようで。

 ロンベルが小さく頷くと、再びフレアへと向き直し口を開く。


「あの野盗にマギナギアを提供していた奴が居るッス。ほぼ間違いなく、アラスタの領主ッス」


 そう答えると、予想外にもダッカス組の4人の反応は薄かった。それは、すでに答えを知っている問題を聞かされているかのような空気感だ。


「薄々そうだろうな、とは思っていたが、やはり連中が関わっていやがったか」


 鍛冶屋らしい筋肉で盛り上がった腕を組むアレグレーがフン、と鼻を鳴らす。


「食料品は全然届かないのに、ミスリル製造に必要なマナストーンなんかは問題なく届いていたからね。分かりやすいにも程があるサ」


 言われてみれば、交易が麻痺したというのに工場の煙突からはもうもうと煙が立ち昇っていた。

 話を聞けば、今ダッカスで製造しているミスリルのほとんどは、ウルスキア軍の使用するマギナギアの製造に使用されているとのこと。

数年間に渡る長い戦い、特にリッテンハルト戦線及びその後のルイン王国戦でウルスキアのマギナギアは多くを損傷している。

ルイン王国を落とした後、ピタリと侵攻が止まったのも不足した戦力の補強に努めているからだ、というのが風説だ。

 ダッカスはその不足した戦力の補充の為、ミスリル増産とマギナギア製造を押し付けられた形となっていた。

 そこでマナストーンまでもが不足してしまえば、それらの製造も滞り、果ては戦力補充も滞ってしまう。

 そのような自体になれば、野盗による交易の麻痺という異常は領主を飛び越えさらに上へと伝わってしまうだろう。

 果たしてアラスタ領主がそこまで考えていたのかは不明だが、結果から見ればウルスキアに不利益となる事だけが起こっていないということで、そうともなれば、否応無しにその裏の存在に気づくことが出来るというものだ。

 その様な説明をロンベルから耳打ちされ、ほーん、とタチアナが声を漏らすと、それを一区切りとしてか、サリアが言葉を繋ぐ。


「ともかく、野盗が出ないと言うことが分かったのであれば、交易の正常化は問題ないでしょう」

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